プードルの毛色、白・クリーム・アプリコット・レッドのフェオメラニンの色調に関わる新たな遺伝子が発見される

文:尾形聡子


[Image by Corey Lankford from Unsplash] レッドの毛色。

犬の毛色は複数の遺伝子の働きによって作られています。全身真っ白の毛の犬もいれば真っ黒の犬、縞や斑点を持つ犬もいます。犬の毛の色は人の髪の毛やほかの哺乳類の被毛と同様に、黒〜茶色の色素のユーメラニンと、赤〜黄色のフェオメラニンの2種類のメラニン色素の生成量や皮膚上での発現の仕方の違いにより作られ、複数の毛色遺伝子のタイプの組み合わせによって、個体ごとに異なる色調や柄としてあらわれています。

犬種ごとにスタンダートとして認められている毛色はそれぞれで、トライカラーのバーニーズ・マウンテン・ドッグなど一つのコートパターンしか認められていない犬種もあれば、毛色と毛質で4種に分けられているベルジアン・シェパード・ドッグのような犬種、はたまたどのような色でも認められているアフガン・ハウンドやシー・ズーなどさまざまです。日本で長年人気を博しているプードルは単色であることが前提とされていますが、多くの毛色と色調が認められており、さらには体の大きさが4サイズ(スタンダード、ミディアム、ミニチュア、トイ)あることも、その人気を後押ししている要因のひとつではないかと思います。

フェオメラニンの濃淡がプードルの4色の毛色を作る

プードルの中でも一番人気なのは言わずと知れたトイ・プードル。中でもよく見かける毛色といえばレッドやアプリコット(オレンジ)ではないでしょうか。これらはフォーンと呼ばれるくくりの中の毛色で、フェオメラニンの濃度の違いによって色調が作られています。JKCのプードルのスタンダードの毛色にも「フォーンは均一な色でなければならず、ペール・フォーンからレッド・フォーン、或いはオレンジ・フォーン(アプリコット)まである」との記載があります。

プードルのペール・フォーンはいわゆるクリーム系の色で、うっすらフェオメラニンの色素沈着がある毛色です。フェオメラニンの濃度が高くなるにつれてアプリコット、レッドと呼ばれる毛色となり、逆にフェオメラニンの沈着が完全にない状態がホワイトになります。しかもそれらの毛色ははっきりと4種類に分かれているというよりは、微妙な濃淡は個体によります。つまり、フェオメラニンを発現するかどうかは質的な形質なのですが、色調の強弱は連続的な形質ということになります。

プードルのこれらの毛色はフェオメラニンだけを作り、ブラックやブラウンの毛色となるユーメラニンを作らないことを指示する遺伝子型を持っていることが大前提にありますが(E遺伝子座において「ee」という遺伝子型を持つ「劣性イエロー」と呼ばれる毛色)、フェオメラニンの濃度の幅広い表現型があるのはなぜなのかは長いこと謎に包まれていました。しかし、2019年と2020年に、ようやく犬のフェオメラニンの色調の強弱の決定に関与する遺伝子が同定されました。


[Image by Alexa from Pixabay] アプリコットの毛色。

2019年に発表された研究ではフェオメラニンの色調を弱くする遺伝子としてMFSD12のミスセンス変異が(「60年もの時を経て~毛色をホワイトやクリームに薄める毛色遺伝子が発見される」参照)、また、2020年の研究ではフェオメラニンの色調を強くする遺伝子としてKITLG遺伝子上流領域にあるコピー数多型が同定されました(「I遺伝子座の片割れの正体が判明!色調を強める遺伝的要因」参照)。多くの犬種において、これらの遺伝子変異でフェオメラニンの毛色が説明できるものの、犬種によって影響の出方の違いがあったり、例外もあり、犬のフェオメラニンの色調決定にはさらに別の遺伝子も関係している可能性が示唆されていました。

これらの研究において、プードルは例外的な犬種に含まれていました。いずれの遺伝子変異においても、

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