エリザベス女王とガンドッグ

文と写真:藤田りか子

それは、まさに以前イギリスケネルクラブの会報誌で見たとおりの光景であった。まるでドレス・コードがあるかのごとく、誰もがワックスコートや草色のツィードジャケットを身につけ、男性はネクタイを着用し、緑色のゴム長靴という、いでたちであった。ドッグハンドラー、散弾銃を伴った撃ち手、ジャッジ、そしてこのゲームに関わるありとあらゆる人々。そして観戦にやってきた200人以上の ギャラリーの列があとに続いた。

天候まで、グラビアで見たとおりで、おそらく12月初旬の頃というのは、イギリス中がこんな風に毎年どんよりと草灰色に満ちたものなのだろう。8時半にミート(朝会)が始まり、その後赤い旗を持った誘導員に従って、巨木の生える樫林を抜け、泥でぐちゃぐちゃの農場路を我々はぞろぞろと行進していった。

シーンの主人公はレトリーバーだ。黒いラブラドールに混ざって時々黄色いラブラドール、あるいはゴールデン・レトリーバーも見られた。人間と同様に神妙そうな顔をしてハンドラーにつれられ、横を静かに歩く。この時点では、まだ犬達のスイッチはオフにされている。しかし、フィールドに入り競技が始まったとたん、彼ら のスイッチは一気にオンに切り替えられた。そして情熱とスタイルに満ちた、「レトリーバーによるレトリーバーのための」パフォーマンスが繰り広げられたのだ。

イギリス・フィールドスポーツの頂点

イギリスでは、毎年その年の最高のレトリーバーを決める栄誉あるザ・レトリーバー・チャンピオンシップという競技会が3日間に渡り開かれる。チャンピオンと言っても、ドッグショー・チャンピオンではない。レトリーバー本来の仕事である「回収技」を競うフィールド・トライアル・スポーツの王座のことだ。筆者が初めてそのトライアルを観戦したのは今から8年前の12月。犬雑誌の取材として出向いた。

2014年の競技会場は、ロンドン郊外、ウィンザー城の大敷地、グレート・パーク。ホストは、そう、もちろんウィンザー城の住人、エリザベス2世女王。ホスト故に、女王は観戦にも訪れた。というか、女王とレトリーバーの関係は切っても切れないものであるが、

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