文:尾形聡子
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心の中に何かを思い描くということを、人は日常生活の中で普通にします。たとえば、目の前に愛犬がいなくてもすぐに思い浮かべることができたり、すでにこの世を去った犬に対しても同様に思い浮かべることができるものです。
このように、過去に知覚した外界の事象の記憶をさまざまなイメージとして心に思い浮かべることを、心理学では「心的表象(mental representation)」といいます。そのイメージは視覚的なものだけとは限りません。自分の愛犬を思い浮かべるならば、姿だけでなくにおいや触感、鳴き声や息遣いなど、嗅覚や触覚、聴覚的な感覚も含めて、多感覚的なイメージをつくりだすことができます。人にとっては当たり前のこの心的表象は、はたして犬にも備わっているものなのでしょうか。
「犬は匂いからのイメージを脳裏に描いている?」で紹介した研究では、犬は特定のおもちゃのにおいだけから、そのおもちゃを思い浮かべていることが示されています。しかしこの研究から、嗅覚というひとつの感覚からおもちゃをイメージしていることがわかったものの、多感覚的なイメージを犬が抱いたかどうかまではわかりませんでした。
犬の心的表象、とくに多感覚的なものについて調べた研究はほとんどないのですが、犬にも人と同様に、心の中のイメージは多感覚的に形成されると考えられています。そこで、ハンガリーのエトベシュ大学の研究者らは、犬が特定のおもちゃを探すときに、におい(嗅覚)または形(視覚)の両方を特定のおもちゃと結びつけていると仮定して、犬が多感覚的におもちゃをイメージしていることを示すべく実験を行いました。
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