文と写真:五十嵐廣幸
ユーカリが両岸に生い茂る川で私たちはこの夏もたくさんの水遊びをした!
この夏はたくさん水遊びをした!今、南半球のメルボルンは秋。そして日本はこれから夏ですね!
この夏も愛犬アリーといっしょに海や川で散歩をたくさん楽しんだ。水遊びのメリットはいくつかある。歩道のアスファルトが熱せられ散歩に適さないほどの暑い日でも、水場なら肉球のやけどや暑さバテを心配することなく、気持ちよく遊べる。水の中に入れば浮力がかかって関節への負担が軽くなり、泳げば全身運動となる。
しかし犬を水辺で遊ばせる際は、溺れるなど大きな事故のリスクがあるので、陸以上に犬とのコミュニケーションを確立しておく必要がある。今回は実際に遭ったアクシデントを通じて、水遊びの注意事項をお伝えしたい。
方向指示のトレーニングがアリーの命を救った
今から数年前、いつも行く川でアリーと水遊びを楽しんでいると、ゴールデン・レトリーバーを連れた男性が、川の下流に向かって勢いよくボールを投げた。アリーはそのボールを夢中で追いかけていき、その先で激しい水の流れに乗ってしまった。必死になって泳いでも、水の勢いはそれよりも遥かに強く、いくら水を掻いてもまったく進まない。時折、水が勢いよく彼女の顔を覆い、アリーはパニックになり始めていた。
私はなんとか冷静さをたもちながら、岸の上からアリーに見えるように左腕を伸ばして岸を指した。水流の向きに逆らうようにして泳いでいた彼女は、私の左腕の指す方向に泳ぐ向きを変え、うまい具合に流されながら泳いで岸の方へと向かった。そして陸の上に無事にたどり着けた。安堵!
川は、急な流れの場所があってもそこから少しでもずれると水流がゆっくりになる。犬が流れに負けまいと必死に泳ぎ続ければ、どんどん体力を消耗するだろう。それより、川の流れに逆らわず斜めに横断させる方が良い。それには、もちろん犬が人の方向指示に従うという技を身につけていなければならない。アリーは、シープハーディングのトレーニングで、ハンドラーの体の向きや、指差した方向に動く訓練を受けている。この技はシープハーディングのときのみならず、川や野原で遊ばせる際も活用している。おかげで、あの時事故に至ることなく彼女を救えたのだ。
シープハーディングを通したトレーニングは牧羊犬種に限定されるかもしれないが、飼い主がオモチャやボールを指差して「あれ持ってきて」といえば、犬種に関わらずたいていの犬は理解する。犬は私たちの声によるコマンド(声符)だけでも、その指示をよく理解する。ゆえに声だけで伝えようとしてしまいがちだ。だが、犬との距離が離れていたり、声が届きづらいうるさい場所などでは、手や腕を使ったコマンド(視符)が役に立つ。これら合図を声符と同時に教えておくと、多くの場所で愛犬とのコミュニケーションがとりやすくなる。
シープドッグやガンドッグ(写真はE・スプリンガー・スパニエル)の作業ではハンドシグナルによる遠隔指示の技がとても重要。この技を家庭犬が習得していても決して損はない。いざというときに重宝するはずだ。[Photo by Axel.E]
また犬とのボール遊びでは、決して自分の犬だけがそのボールを取りにいくとは限らない。ボール遊びが好きな犬なら、どんな状況でも誰のボールでも構わずに追いかけていくかもしれない。だから川でボールを投げる際には、周りにいる犬ももしかして追いかけるかもしれないということを念頭におきながら、上流に向かって投げたり無理せずボールを回収できるような場所に着水させるといった気遣いと注意が必要だ。
釣り糸に注意
アリーとの川遊びの際に出遭ったもうひとつのハプニングを紹介しよう。彼女はいつものごとく川を泳いでいたのだが、あるところでいくら犬かきをしていてもまったく前に進んでいないのに気がついた。水の流れは穏やかなのに、前に進まないのはおかしい。腰丈ほどの深さの川にザブザブと洋服のまま入っていき、アリーを抱き上げた。彼女の後ろ足には、川底に繋がったままの釣り糸が絡み付いていた。
この糸は、魚釣りをする人が意図的に捨てたものではなく、「根掛かり」によるものだ。魚釣りをする人なら何度も経験したことがあるはずだ。釣り針やルアー、糸などが水中の倒木や石、水草などに絡まってしまう状態である。釣り人は自分の仕掛け(釣り針やルアーなど)を失わないためにも、釣り竿や糸を前後左右へと色々な方法で動かして回収を試みる。しかしどんなにやっても取れない時は、その糸を切るしかない。
アリーの足に絡まった釣り糸はなかなか外れなかった。私は片腕でアリーを挟むようにして抱き抱えたまま、足を傷つけないよう釣り糸を引っ張って伸ばしたり、切ろうとしたりした。しかし、釣り糸は切れもしなければ伸びもしなかった。結局、足に絡まった糸を丁寧にほぐしながら外して岸に戻った。
根掛かりした釣り糸は、どこの水辺にもあるものだ。釣り糸はほぼ透明で人の目でも見えづらい。こういうことが万が一起こったときのために、犬との水遊びの際は、裁縫用の糸切りバサミのような小さくて持ち運びできるものを鞄に入れておくといいのではないだろうか。
ハンドラーが助けられない場所では遊ばない 〜 犬から目を離さない
犬が溺れそうになっても、釣り糸が絡まってしまっても、ハンドラーが犬を無事に救出できれば、それは思い出話にできる。しかし、人が近づけない場所で起きたら?いざという時に犬を救い出せるよう、ハンドラーの安全が確保できるような場所で遊ばせることも大事だ。
そして犬は必ずハンドラーの監視下におくこと。周りの状況や自然環境を考えて、危ない場所から犬を遠ざけよう。小さい子供がいる場所ではリードに繋いだり、ビーチで寝転んでいる人の横を走らせないよう注意をすること。これだけでもたいていのアクシデントは未然に防げる。
友達といっしょに来ている人の中には、会話に夢中になって自分の犬を見ていない飼い主もいる。本来なら相手の顔を見ながら話しするのが普通であり礼儀だろう。しかし私なら、犬を連れているときは視線を常に犬に向けるようにしている。話の内容も5割ぐらいしか聞けていないこともあるが、それもこれも犬を危険に晒さないため。水場に限ったことではなく、普段の散歩でも、愛犬やその周りに視線を向けておくことで、リスクを減らせる。友人との大事な話は、散歩が終わってからゆっくりと行う方がいいのではないだろうか。
もっとも日本では川や海でもオフリードにする機会はそう多くないかもしれない。それでも犬を自由に遊ばせたいという飼い主の気持ちから、伸縮リードを使って水遊びをさせる人もいるだろう。そのリードが犬の首や足に巻き付いて事故につながることも容易にイメージできる。
また水辺に落ちている釣り糸やガラス片などを見つけた際は、拾ってゴミ箱に捨てよう。事故の予防となるはずだ。自分の犬のみならず、他の犬や飼い主の安全が確保できるよう、私たち飼い主全員で、犬も人も安心して遊べる環境を作り、快適な水遊びを楽しんでもらいたいと思う。
水遊びの際は安全に気をつけて!さて、犬と遊びながら、こんなことを考えてみました。犬ってどうやって犬かきしているんだろう?というわけでアリーとイナリ主演の「犬の泳ぎ方」動画をみてね!
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文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ
youtube;アリーちゃんねる