文と写真:五十嵐廣幸
社会から分断されやしないか、日本の犬たち?
日本の犬(と飼い主)は社会からますます隔離されつつあるように思える。「散歩中に犬の排泄をさせないように」という、かの有名な規則が東京にはあるが、それだけではない。「犬を連れて公園に入ること」すら制限されている地域もあると聞く。公園とはそもそもパブリック(公共)であり、開かれた場所であるはずだ。それなのになぜ犬を連れて入ってはいけないなどというルールができてしまったのだろうか。
東京都目黒区や中野区、練馬区などの自治体のウェブサイトによると、一部の飼い主によるマナー違反が最近とみに目立つようになり、それが犬連れ入園禁止につながったらしい。犬の糞尿の始末をしない、ノーリードで犬を遊ばせる、公園でブラッシングする、など社会常識があれば自制できたはずの行動である。
犬を飼わない人たち、嫌いな人たちからしたら、これは飼い主マナーの悪さが生んだ当然の結果と考えるだろう。しかし愛犬家としては、マナー違反をする利用者がいるのを認めはするものの、公園での犬連れ禁止とは少々行き過ぎた対応と感じるものだ。
犬の排泄については、以下の記事を以前書いたことがあるので参考にされたい。
私が暮らしているオーストラリアにも糞を拾わない飼い主はいる。だからといって、犬との散歩の全面禁止を押し付けるようなルールは自然保護区域の公園でもないかぎり、まずない。では、どう犬の飼い主が他の市民と折り合っているのか、メルボルンにおける犬散歩事情を紹介したい。
オーストラリアの公園事情
海外=犬を自由にできる、と思っている人もいるようだが、オーストラリアにおける公園の特徴は、犬連れをしたい人が世の中にいるという前提で、していいこと、いけないことのルールを最初から明確にしている点だ。どの公園でも、まずは犬が子供を傷つけないように、そして他人に迷惑をかけないための規則が掲げられている。
たとえば、子供の遊具の周りに犬を近づけさせてはいけない、犬をオフリードにしても常に監視、犬をコントロールする、といったものだ。これらに違反すれば、自治体から罰金や飼育指導が課せられる。また公園ならどこでも犬を放していいとは限らず、ノーリードOKの指定区域を設けているところもある。だからそこ以外でノーリードにすれば当然違反になり、飼い主には罰金が課される。
国立公園や州立公園の場合
ただし国立公園や州立公園に指定されている場所ともなれば、たいていの場合犬や猫などドメスティックアニマル(ペット)を連れて入ることはできない。自然を守り、野生動物にストレスを与えないためである。そして、ペットの糞尿は生態系になんらかの影響を及ぼす可能性がある。
そんなわけで、犬を連れて川遊びがしたい、森の中を一緒に散歩したい、と思っても、自然の中に入る際は、まず犬連れがOKか調べるところから始まる。メルボルン近郊であればParks Victoriaなどの政府機関のウェブサイトを開き、それぞれの公園の詳細をチェックする。そこに、Dogs Allowed (犬連れを許可します)という文字がなければ、犬連れは諦めるべし。
国立公園や州立公園以外にも、各自治体にはReserveと呼ばれる動植物の保護区がいくつかあるが、この場合、特別な制限がない限り犬を連れて入ることができる。
オーストラリアの公園の看板、飼い主ルールのいろいろ
(写真上)この公園ではスポーツトレーニングや試合が行われている時にはオフリードが禁止、それ以外であれば、犬をリードから外すことができる。ただし、犬を常に監視し、コントロールしておくこと、とされている。
こちらはオフリードにできる公園だ。しかし、プレイグラウンド(子供の遊具がある場所)、ピクニックエリアやバーベキューエリアから10メートルの範囲内ではリードを必ずつけなければならない、とある。
このエリアではオフリードできますよ、という意味。ただし、何かあれば飼い主責任が発生します、とも記されている。責任を持つことなくして自由は得られない。
ここでは全ての犬がリードをつけて入場のこと、と記されている。ただし、地域のドッグ・オビディエンスクラブが水曜日と土曜日にトレーニングを行なっているときは、クラブメンバーであればオフリードもOK、とも。このような広場が、ドッグクラブの練習場所に使えるというのはありがたいことである。
犬の糞を拾わないと200ドル(約16,000円)の罰金の看板。(*1オーストラリアドル80円で換算)
浜辺近くの歩道にある、「犬には常にリードをつけなければならない」の看板。
この子供の遊び場では周囲5メートル以内に犬を近づけてはならない、というサイン。
とある自然保護公園での看板。犬は常にリードをつけること。また自然保護のため、犬連れは指定された道だけを歩くこと、とある。
自然保護公園の看板。この先犬の侵入禁止。同じ公園内でも犬が入っていいところといけないところを明確にしている。
オフリードパークにおける注意書き。以下のように記されている。
●この公園を使う他のみなさんのことを考え、犬を常に管理コントロールしてください。
●あなたの犬がもし攻撃的な行動を見せたら、この場所から退去してください。
●子供は犬に襲われやすいので、犬の近くにいるときはしっかり監視しておいてください。
●二頭以上の犬を散歩させたい場合は、友達を連れてきてください。
●(オフリードの公園ですが)リードは常に所持しましょう。
●犬の糞は必ず拾って自宅に持ち帰ってください。(Parks Victoriaでは公園にゴミ箱を設置しないで各自が持ち帰るようにしている)
ビーチによっては犬を連れて入ることもできるが、その規則は細かく設定されている。この写真のビーチでは、看板を境に、犬連れのルールが異なる。看板の右側のビーチは11月1日から3月31日まで犬の入場は禁止。しかし、午後7時半から午前10時までの間はOK。左側のビーチでは、歩道と保護地域ではリードをつけなければならないが、ビーチではリードを外すことが許されている。
どうして壁を作ってしまうの?
以上見てきたようにオーストラリアでは、犬、犬の飼い主、それ以外の人たちが「公園はみんなのもの。お互いがルールを守って快適に使おう」という意識を持つことで、共存共生の社会が実現できている。犬と散歩している飼い主の横に、サイクリングを楽しむ人たち、芝生の上でピクニックをしている家族、サッカーボールを蹴って遊んでいる子供たちがいる。ノーリードが許可されている場所なら、自由に疾走している犬もいる。オーストラリアでそれらの光景は日常のものだ。
日本では「犬を飼っている側とそうではない側」の間に、犬の公園入場規制のような大きな壁を作ってしまっているように感じる。日本特有の「ドッグカフェ」も、その壁がつくりだしたものだろう。人間と同じ椅子に座らせてケーキを食べさせる、店内ではリードを外して自由にさせる。そんな調子だから、粗相があってもそれほど恥じることではなくなるのかもしれない。
公共の場でどう他の人と折り合いをつけるべきかを経験しないまま、飼い主はドッグカフェでますます鈍感になっていく。「犬だから仕方ない」「ここは犬のための場所だから」「犬が嫌いな人はドッグカフェに来ないで欲しい」という「3だけ主義的」な甘えも増大していく。「3だけ主義」については臨床心理士の北條先生のこちらのブログを参照いただきたい。
「犬は公園に入れない」「オフリードにできない」という日本の現状の問題点は、犬の飼い主と、そうでない人がお互いに壁をつくって共生関係を促進させようとしないことにありそうだ。人間社会と線引きするような犬の飼い方をやめない限り、日本の飼い主と犬たちはさらに社会から排除されていくことになるのではないだろうか。
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/504000/d024708.html
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オーストラリアの公園事情は、こちらのYoutubeも要チェック!
文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ
youtube;アリーちゃんねる