作業をする犬をかわいそうと思わないように

文:藤田りか子

[Photo by SheltieBoy]

狩猟動物ゆえ、我働く

なぜ犬は仕事をするのか。

「できるなら、仕事なんかしたくない。宝くじで数億円でも当てれば、今の職場すぐに辞める!」

と人間なら考えるだろうに(筆者がその一人)…。でも、犬は食住を人から与えられていても、敢えて仕事をする。それも喜んでする。これはなんとも受け入れ難い事実だ。狩猟犬や警察犬など仕事をしている犬を見て「働かされて可哀相」と嘆く人もいるけど、はっきりいって同情無用だ。

でもいくら怠け思考の人だって、家でゴロゴロしながらの一生なんて決して送れないと思う。状況が許し働かずに済むとしても「何かしら体や手を動かしていたい」「何かを達成させたい」等と目的意識や創作、即ち「労働」への欲求は絶えずあるはずだ。

犬もヒトとこの点では同じだと思う。犬にも常に労働の欲求がある。彼らが敢えて仕事をするのはそのためだと考えたい。

犬もヒトも作業好きな動物であるのは、両者が共に狩猟動物だという事実が根底にあるからだ。今でこそほとんどのヒトは狩猟をしないが、それでも遺伝子の中ではまだまだ十分に狩猟動物だ。人類の歴史が数百万年として、文明生活に突入したのはたかが数千年前。歴史のスケールの中では、狩猟をしていた期間の方が圧倒的に長い。このスケールで考えると我々が狩猟生活を放棄したのはついこの間のことである。

狩猟動物のライフスタイルには、そこに生えている草を取るだけではなく、逃げる「食べ物」を捕まえるという行為も含まれる。捕まえるためには、作戦やチームワークといった頭脳プレーが要求される。そこで各狩猟動物には、この高度な行動を可能にすべく巨大エンジンが進化の中で備え付けられた。そこから生み出されるエネルギーは膨大であり、たとえ狩猟を止めたとしても、何かの形をとって昇華されなければならない。それが「仕事」という形をとることもあれば、「レジャー(旅行をしたり、趣味にうちこんだり)」という形を取ることもある。いずれにしろ、絶えず忙しくしていなければ気がすまないのは、狩猟動物故に遺伝子にふか~く刻みこまれたヒトと犬の宿命でもある。

だから犬もヒトも仕事をする。牧羊犬として働く犬、警察犬として働く犬は、いずれも狩猟動物故に内蔵された「巨大エンジン」を人間が利用した結果であり、なるべくしてなった犬の姿だ。私たちが目にする様々な犬のお仕事は、全て狩猟行為の延長線上にある。まぁ、人間のそれもほとんどは狩猟行為の延長にあるものだけれども。

コミュニケーションができるから!

ここで牧羊犬の仕事振りをみてみよう。牧羊犬の行動は羊を

狙いを定める-忍び寄る-追いかける

で成り立つ。これは犬が野生時代に行っていた捕食行動の一部を抽出したものだ。野生の食肉獣の行動なら、

獲物を探す-狙いを定める-忍び寄る-追いかける-つかむ、咬む -殺す

という少し長いレパートリーになる。このうち羊を集めるのに都合のいい動作が、人間の選択繁殖によって固定されたと考えていい。しかしながら、牧羊犬が働いている際は、本能に任せて勝手に仕事を行っているのではなく、これら行動のレパトーリーをどのタイミングでどの程度を見せるべきか、人間がコマンドによって犬を導いてあげている。即ちそこに人と犬とのコミュニケーションが発生している。

[Photo by khaosproductions]

人とコミュニケーションができるという能力は他の動物と一線を画す犬のスゴイ部分である。ネコには、人から出るコマンドを待って次の行動にうつすという習性はない。それはネコが馬鹿だからではなく、生きるために社会に属そう、みんなにいい子に思われたい、という気持ちが生物種として備わっていないのにすぎない。それで「協調」という言葉にもピンとこない。

犬のコミュニケーション欲は、人に依存する、人と強く結びつこうとする社会性から由来している。この能力なしに、いくら狩猟時代伝来の技を持っていても、人間の世界で役に立つお仕事犬にはなれなかったはずだ。

犬種によって得意なお仕事は様々

全ての犬は同様に働き者だ。しかし人間の世界に様々な職種があるように、犬の世界の職も様々。そして犬種によって得意とする分野がある。イヌの職種はおおまかに以下のような2つのカテゴリーに分けられる。

1 人間との密なコンタクトが必要とされる職業

  • 牧羊:ボーダー・コリー、ケルピー、シェパード等
  • 鳥猟:レトリーバー種、スパニエル種、ポインター等
  • 都市型職業(=警察犬、軍用犬、探知犬、介助犬の仕事):シェパード、レトリーバー種、スパニエル種等

狩猟作業をするワーキング系のイングリッシュスプリンガースパニエル [Photo by Laura Thomas]

2 ある程度犬にパフォーマンスをおまかせできる職業

  • ハウンド業(=獲物を追いまわす):ビーグル等嗅覚ハウンド種、アフガンハウンド等視覚ハウンド種、柴等オールラウンド・ハウンド種
  • 牧畜番:グレートピレニーズ等

羊の番をするマレンマ・シープドッグ [Photo by Eric Sonstroem ]

犬種とはある意味「職業別に作られた犬のカテゴリー」といっても過言ではない。だから

「ボルゾイや柴に警察犬の仕事ができないからシェパードよりも頭が悪い」

と考えるのはまるでナンセンス。ボルゾイにはボルゾイの得意分野があり、その中ではエキスパートだ。逆にシェパードにボルゾイの仕事はこなせない。

さて、この中で私たち日本人に最もなじみがあるのはカテゴリー1の都市型職業犬だろう。いずれの機会にこのお仕事をこなす犬達のならではの特別な資質についてフォーカスした記事を紹介しよう。乞うご期待!(以下の記事にすでに公開されております↓)

ドッグスポーツができる犬に必要なパーソナリティとパーソナリティテスト
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なお牧羊犬の作業と犬の行動についての関連性についてはこちらの本に詳しく記されていますよ!(↓)