文:尾形聡子
[photo by Andrey] モスクワの野良犬。
この地球上には、人に飼われることなく路上で自由に暮らす犬たちが各地にいます。都市部でこそ野良犬は姿を消しましたが、ちょっとした山間に行けば見かけることもあるように、ここ日本でも決して少なくありません。時代の流れとともに野良犬の捉えられ方も変化してきていますが、現在、野良犬の問題は大きく二つあると言われています。ひとつは衛生上の問題で、人や飼い犬に狂犬病や寄生虫、感染症などの病気が広まるリスクがあること、そしてもうひとつは、虐待されたり安楽死させられるというような野良犬自身の福祉の問題です。
野良犬を保護し、新しい家庭を見つけるという活動は日本のみならずヨーロッパでも広まっており、北欧やイギリスなどでは東欧や南欧諸国で保護された犬を輸入し、国内で飼育者を探すことが決して少なくないようです。北欧での外国から輸入した保護犬状況については藤田りか子さんが「外国出身の保護犬はちょっと… –これもスウェーデンの犬事情–」で詳細に紹介されています。そこにも記されていましたが、ノルウェーでは2018年7月から海外で保護された野良犬の輸入が禁止されたそうです。野良犬の福祉と感染症などの問題、さらには長距離輸送する際に受ける健康上のリスクもあり、すべてをクリアするのがいかに難しいかを感じさせられます。
大きな二つの問題以外にも、野良犬に特有と考えられる行動上の問題についても決して見過ごすことはできないでしょう。上記、藤田さんの記事の中には、
「せっかくスウェーデンにきても、ハイパーストレスの状態にいる犬がいます。怖がる、警戒をする、は路上の野良犬が生き残るために取得した習性でもあります。これを今更作り替えよう、というのは無理な話なんですよ。犬のウェルフェアにとっていいはずがありません。むしろ安楽死させた方がいいぐらいです」
という意見もあるとのことでした。また、バリ島において、野良犬が家庭犬として飼われるようになると、興奮性や攻撃性が高まるなど、少なからず何かしらのストレスが生じているという研究結果も出ています。野良犬は、不特定の人から虐待を受ける可能性が、家庭犬と比べて高い可能性があります。しかし、生まれ育った路上での暮らしから突如人の管理下に置かれることが、彼らにとって必ずしもプラスに働くことばかりではなく、家庭犬としての生活に適応するのに苦労している可能性を示唆するものです。
一方で、イギリスの研究ではルーマニアから輸入された犬を家庭に迎えた飼い主の97%が満足していると回答していたり、イギリス国内でシェルターに保護された犬と輸入された野良犬とに問題行動の保有率には違いがなく、野良犬は家庭犬として適応できると結論している報告もあります。イギリスは海外から保護犬を輸入して救済する活動が盛んで、ルーマニアからだけで2014年には3,616頭だったのが、2019年には19,487頭にまで増加しているそうです。野犬が多いことで知られるルーマニアの野犬問題については藤田さんの「ルーマニアから−野犬を飼うのは愛護?」をご覧ください。
さて、このような状況を鑑み、デンマークのコペンハーゲン大学の研究者らは、輸入された野良犬とデンマーク国内で育った家庭犬との間に問題行動のレベルに違いがあるのかどうかを調査し、