文:尾形聡子
[photo from University of Veterinary Medicine, Vienna press release]
人も犬も同じく加齢により脳の機能が衰えていきます。そして、犬も寿命が延びてきた昨今、人の認知症のような症状をあらわすようになることが増えてきました。徘徊したり、学習していたことが抜け落ちてしまうなどの症状がみられ(詳しくは『最近集中してくれない・・・犬に見られる認知機能障害の徴候』を参照ください)、認知機能障害症候群(cognitive dysfunction syndrome:CDS)と呼ばれています。
人の世界では老後の生活の質を維持していくために、脳機能の低下や認知症の発症や進行を遅らせるために、脳を活性化する=脳トレが広く行われるようになっています。物理的に体を動かすことが難しい場合、それはとても有効な手段のひとつになるでしょう。
犬も加齢により肉体的な活動が制限されてしまうことがありますが、何歳であろうとも犬も人と同じく精神的な刺激を必要とし、且つ、そこからポジティブな感情を抱くことに喜びを覚える生き物でもあります。そのような背景から、ウィーン獣医大学のClever Dog Labの研究者らは犬の体に負担にならない脳トレ方法として、タッチスクリーンを使った簡単なゲームを生活に取り入れることを提案しています。
タッチスクリーンで遊ぶ犬の様子。
人も犬も加齢とともにドーパミンの産生量が減少し、記憶力やモチベーションの低下を引き起こすことが知られています。そして一般的に、犬が歳をとるにつれてトレーニングや新しいことに挑戦する機会がだんだん減ってくる傾向にあります。たとえ高齢になっても犬は学習できることから、研究者らは精神的な刺激をつくる機会が制限されがちな状況を改善するための手段として、タッチスクリーンとご褒美のおやつを使ったゲームを開発しました。上の映像にあるように、タッチスクリーンを使ったゲームは、若い犬ばかりでなく年老いた犬も積極的に反応することが示されたそうです。
実際に、加齢とともに犬の認知機能が低下していくのは、トレーニングや精神的な刺激の不足が原因となっているかどうかは現時点ではわかりません。けれども、報酬が得られることは新しい何かをするモチベーションを高める重要な要素になり、タッチスクリーンを使った簡単なゲームをクリアすることによって得られるポジティブな感情は、さらに学習意欲を引き出すものであることが示されたと研究者らはいいます。そしてそれは、人の高齢者が新しいことを学習したり楽しんだりする感情と同等のものだと考えているそうです。
犬も歳をとってくると寝ている時間もだんだん長くなり、体力や集中力が低下してきますが、だからといって散歩や遊び、トレーニングをしたくないわけでは決してありません。一般的には年齢とともに活動量は減っていきますが、人のさじ加減で減らしすぎると体や脳の老化を加速させてしまうことが分かっています。肉体への刺激、精神への刺激を与えるために、適度に体を動かし、楽しい経験をする機会をもつことは、一生続けていくべき大切なことです。
精神面への刺激のひとつの手段として、このようなタッチスクリーンゲームが気軽に利用できるようになるならば、みなさんも試してみたいと思いませんか?加齢や病気により体を満足に動かせない場合にも活用できるこのタッチスクリーンゲームは、そのような犬たちの精神的な幸福度をより高めてくれるものとなるかもしれません。
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【参考サイト】
・University of Veterinary Medicine, Vienna press release