文と写真:藤田りか子
アドバンスドクラス(NW2)のコンテーナー・サーチは、箱に限らず様々な「入れ物」が使われる。この試合ではスーツケースがサーチの対象となった。まるで飛行場の爆薬探知犬をハンドリングしているみたいだ!
2018年はいきなりノーズワークの競技会から始まる年となった。スウェーデンでは毎年1月最初の週に北欧諸国で最大規模のドッグショーMyDOG が開催される。参加犬数は9000頭!ショーのみならずありとあらゆるドッグスポーツの祭典でもあるのだが、ノーズワーク競技会もこのお祭りに昨年から仲間入り。今やすっかりスウェーデンの定番スポーツとなった。そして何を隠そう、ラッコと私はこのノーズワークMyDOG杯に参加することにしたのだ。それもアドバンスド・クラス(NW2)。彼にとって初のNW2の公式戦。参加犬は全部で70組(ノービスクラスNW1ではなんと200組!!)。
スウェーデンケネルクラブからMyDOG2018年のプロモーション映像。犬の様々なアクティビティに満ちた最高に楽しいイベント!北欧を旅行する人に、ぜひおすすめ。毎年1月の最初の週に開催される。
通常ノーズワークのサーチは、個室のような閉ざされたところでハンドラーと犬、そしてジャッジとアシスタント、という構成でひっそり行われる。というのも、匂いの隠し場所を参加者に見せないように、そして他の犬や人に攻撃性を見せたり、周りに気を散らせるような難しさを持った犬でも参加できるように、という配慮による。だが、MyDOGの競技会だけは、ギャラリーがあり誰もが観戦できるように配備(ただし競技者はギャラリーに入ってはいけない)されている。おまけに周りではドッグショーが行われており、人や犬が行ったり来たり。まるで東京駅の構内にいるようなごった返し状態。新しい環境をものともしない、あるいは競技会に場慣れした犬でないと、少々厳しいコンディションでもある。
ラッコは子犬の頃からの環境トレーニングにもかかわらず、周りを常にチェックするタイプの犬だ。が、頑張ってイベントや競技会に出向き続けた甲斐があり、自分の課題に集中する能力を身に付けるようになった。ただしここまでガヤガヤしているところでのトレーニングというのは今までなかったし、できるかなぁ…と思いきや!なんと実は彼、失点知らずの100点満点を獲得した。NW2のクラスはノービスと異なり、一つのサーチにつき二つの匂いが隠されている。四つのサーチがあるから全部で8つ。それを全て時間内に探し出した。このクラスのサーチとなると、犬の鼻が届かないところに匂いが隠されているなど、決して競技は易しくない。さらに驚いたことに、ラッコと私は70組中満点をとった唯一二組の一つだったのである。おかげで準優勝として表彰台に登るという光栄にも預かった。満点をとると、サティフィケートがもらえる。これを三つ獲得したら、次のクラス(NW3)へいける。ただしNW1とは異なりNW2で満点を取るのは非常に難しく、これまでに満点の犬が出ない試合が結構続出していた。そんなわけでNW2のサティフィケートは誰もの憧れ。それをすでに初の公式試合で獲得をした私は、まさに夢心地!その夜はさすがににやけてしょうがなかった。
2018年1月、MyDOGで準優勝の表彰を受けたラッコ。サティフィケートを獲得!この日、私は有頂天になったのだが….
その一ヶ月後。さらなる公式試合に出場することにした。よし2枚目ゲット!とすっかり勝つ気でいた。が、結果は惨憺たるものに。時間切れで匂いをいくつか見つけられず….。のみならずサーチエリアを手で触れてしまう、トリーツをポケットからこぼすという初心者ミスをやらかし、失点が重なり競技失格!前回のことで浮かれていただけに、頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。
さて、どうしてなのだろう。
気を抜いてしまったというのはある。そのせいか、これまでの練習がワンパターンになっていたことも否めない(あれだけ「マンネリ化はトレーニングの敵!」と自分のブログで言い放っているのにも関わらず!)。MyDOGでは自分で普段行なっているトレーニング環境にたまたまどれもよく似ていた。狭い部屋にたくさんのものが散在しているというサーチである。が、この度の試合では、園芸屋が使われた。そのサーチエリアの二つほどが苗木を育てるテーブルが列状に並ぶ20mx40m四方の区画であった。そのだだっ広さと言ったら!やはり、普段の練習がワンパターンになると、競技会でその弱さが露呈されてしまうものだ。前回お話しした通り、大学入試試験の取り組みと全く同じである。常にいろいろなパターンを想定して、普段のトレーニングでは競技会の出題よりやや難しいものを解くトレーニングを積まなければならない。
屋外サーチ。このだだっ広い、そして隠し所満載の園芸屋のナーサリーがサーチエリア。ここで2個の匂いを5分以内で探す!
屋内サーチは、グリーンハウスの中。ここも広いエリア。サーチ制限時間3分。制限時間はジャッジが競技会ごとにエリアの状態を見て決める。
さすが園芸屋さん!店内でのコンテナー・サーチはじょうろ。ここでは制限時間1分。
そしてもう一つある教訓を改め思い知った。
MyDOGの試合の時はまさか100点など取れるとも思いもせず、無欲で臨んだ。今考えてみれば、それがよかったのかもしれない。というのも、素直に犬の行くところを私はただついて行ったのだと思う。今回の失敗は、何回かラッコが行こうとした方向に私がついて行かず、そこで匂いを逃していた(とあとで、ジャッジが教えてくれた)。
「Trust your dog (自分の犬を信じなさい)」
と今は故人となってしまったロン・ガーントさんの言葉を思い出した。彼はエイミー・へロー、ジル・マリー・オブライエンとともにK9 Nose Work®︎というスポーツを生み出した。亡くなったのは昨年の暮。その半年前ほどにスウェーデンに来てセミナーを開いていたのだ。彼がその時事あるごとに生徒に伝えていた言葉だそうだ。その感性は半分ヒト半分イヌとも言われていた程。今までに数々の職業的探知犬を育てあげた犬の嗅覚を理解するエキスパートであった。
やはりノーズワークというのは犬を読むことに他ならない競技だ。犬というのは常に匂っている。それどころか、犬はサーチエリアに入った瞬間から実はもう漂う匂いを察知していることもある。だから、どこでターゲットの匂いを強く感じ始めているのか、犬のボディランゲージから推し量らなければならない。隠し場所のレベルが高くなればなるほど、微妙な反応に気づくことこそが決め手となる。その時犬に従ってハンドラーは付いて行っているのか。「自分の犬を信じる」ために、犬を読むことが必要となる。
競技会は勝てば楽しい、でもたとえ勝たなくとも、参加すればするほど反省が広がり、さらに犬のことを知ろうとする意欲が湧く。こうして私とラッコは競技会にのめり込んでゆく。次にいつNW2のサティフィケートを取れるか未知ではある。しかしラッコと私の新たなるノーズの旅第2章が今こそ始まったのだと思う。