あらゆる面でペットに有利になる備えを~危機管理のプロ、サニー カミヤさんに聞く(2)

文と写真:尾形聡子

愛猫ピカソくんと一緒に。

前回に続き、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com にて『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』の連載をされている、一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事のサニー カミヤさんに伺ったペットレスキューに関するお話を紹介したいと思います。

消防がペットレスキューをするのはなぜ?

ペットレスキューは行政サービスの一環として、さまざまなレスキュー技術を持ち道具を備えている消防局が請け負って行っています。東京消防庁の統計によりますと、毎年500~600件ほどペットレスキュー(ペットに限らず哺乳類)に出動しているそうです。消防には救急救命のためのノウハウやスキルがあるとしても、そもそもなぜ消防がペットレスキューを行うのでしょうか。ペットに適用することは社会的に認められていることなのでしょうか。

「消防法の第一条には、”消防は国民の生命、身体及び財産を火災から保護する”と明記されています。現在法律上ペットは財産であるとされていますよね。野良犬や野良猫ですと所有者を特定するのは困難かもしれませんが、たとえば保護犬を受け入れた場合、そこに金額が発生しなくてもオーナーシップが発生すれば財産とみなされます。たとえるならば、内縁関係にある夫婦のようなもの、内縁のペットともいえばいいでしょうか、笑。」

このように、消防が消防現場でペットの救助活動するのは法的にも正しい職務行為とされています。そして条文にあるように、そこに直接人がかかわっていなくても、財産を守るという観点から消防はペットを守ってくれるともいえます。

「そうなのです、がしかし、消防サイドの人々がみなそのように思っているわけではないのが現状です。消防関係者もペットは財産であるということを知らない人が意外にも多いのですよ。」

そもそも、行政が新しいことをしたがらないというスタンスが背景にあることも原因にあるようです。前回のお話にあったように、日本は海外と比較されることを嫌う傾向にあること、さらにリスクを負うくらいならば新しいことには手を出さないほうがいいという判断が慣例となってしまっているのでしょうか。

「お年寄りが増えているので救急出動は増えているのですが、火災などの事故事案は減っています。ですので、ある意味現場での経験不足も今問題になっているところなんです。そのようなことからも積極的にペットレスキューを行っていけば、ある意味人と同じような手順で救命しますので現場の訓練にもなります。しかし、たとえば東京消防庁のような世界的に見ても大きな組織は、外の人間からいろいろ言われたくないのですよね・・・。」

組織力も消防力も世界一レベルと評される東京消防庁。しかしそのステータスが裏目に出てしまうこともあるようです。

「ペットレスキューについての話し合いをしても、たとえばペットは救急車では搬送できない、ペットを触った手で次に人を触るのかといったように、問題となるようなところからまずは突いてきます。もちろん細かな対策は取っていく必要がありますが、助けられる命は助けたい、そう思うのはペットであろうと同じです。それが人道的なことではないかと。」

もう一匹の愛猫ライムちゃん。ライムちゃんとピカソくんは同胎だそうです。

今後の活動の方向性は?

「ペットレスキューを普及させていくだけではなく、環境省などペットに関係する行政、獣医師や動物関連の仕事をされている方々、さらにはペットの飼育環境などを含め飼い主の方々、みなのモラルが少しずつ向上していくようさまざまな方面からアプローチをしていきたいと思っています。」

特に行政関係は、おいそれとは協力態勢を見せてくれないのが現状だそう。

「とはいえ今のところ一人だけではありますが、葛飾区の本田消防署の署長さんがとても動物好きな方で協力を示してくれています。しかし組織の中で動くのが難しいのは、たとえばペットレスキューを行わなくてはならないとなると、どうしても反発が出てきてしまうところです。なぜペットを助けなくてはならないんだ?と。でもそれはそれでいいんです。個人がそれぞれ思うことは、誰も止めることはできませんからね。」

それよりも大切なのは、ペットレスキューができるような体制を少しずつでも作っていくことなのだとサニーさんはいいます。

「まずは、ペットセーバー講習会を開催して得た収益で、ペット用の酸素マスクをアメリカから輸入し、日本全国の消防署に寄付したいと思っています。消防現場ではもちろん人命救助が優先ですけれども、消防法の第一条にも明記されていますから、緊急時の現場ではペットに酸素マスクを使用していいのではないかと考えています。しかし酸素を与えることは医療行為にあたります。そのため、獣医師会や担当行政による通達が欲しいところではあるのですが、その結果を待つとなりますと、いったい何年かかるかわかりません。ですので私は、消防署に酸素マスクを寄付していき、現場で使ってもらえるような状態にしていこうとしています。現場で使えるペットレスキューの方法、そしてペットレスキュー用の器具をそろえていきながらの普及活動です。」

日常の中でもペットを救急するための訓練をしておくべきと考え、ペットセーバーという消防用のプログラムを作成したそうです。ペットを救出すべき状況から救出するだけでなく、そのあとの応急処置なども含めて生命を守るためのプログラムとなっています。写真のぬいぐるみは講習会で使用するもの。

いざという時には119へ連絡を!

一般の方々が、災害時に限らず犬や猫などが助けを必要としている状況にあるのを発見した場合、どこに連絡をするのがいいのでしょうか。

「たぶん警察に連絡される方がほとんどではないでしょうか。本来は動物愛護センターや東京都福祉保健局、環境省などが対応することになるのですが、現場の対応となると警察と思われるのでしょうね。しかし、警察や保健所では対応しきれないことも多く、結局は消防に回ってきます。」

たとえば犬が高速道路に迷い込んだ場合、二次被害が起こることを想定し、それを予防するために消防に出動命令が下るそうです。しかし実際に事故が起きたなどの緊急事態ではないので、サイレンなどは消灯して通常走行での出動になります。

「シチュエーションにもよるので一概にはいえませんが、やはり、警察へ連絡するよりも119番に通報していただくのが早いですね。一刻を争うような状況にある場合などは、ペットのためを考えてもそのほうがいいと思います。直接消防署に行っても、もしかしたら社会的なシステムに則ってまずは保健所に連絡してくださいと言われてしまうかもしれませんが、結局はぐるりと回って消防に指令がくることになりますから。先ほどお話ししました消防法第一条というものも大前提にありますしね。」

日本のペットレスキューのために私たちができること

日本のペットレスキューを取り巻く環境は、まだ決していい状態とはいえません。しかし、私たち飼い主ひとりひとりがやっておくべきことがあります。

「イザ災害!という事態のときにペットの命を守る義務を果たせるよう、まずは飼い主の方にしっかりと責任を持っていただきたいと思います。ペットの救助や避難所などで周囲に迷惑をかけないためにも、普段からしつけなどをきちんと行い、モラルを育てていってほしいと思います。」

ペット関連は担当が環境省ですが、実際になかなか一般にまで砕いて広めていくことができていないとサニーさん。そのためにもペット防災関連の団体が増えていくことを望んでいるそうです。

「各団体で行っていることはそれぞれ正しいことでしょうから、いろいろな人がいろいろな形で具体的に活動をしていくことで、少しでも多くの人にペットの防災について知ってもらえることが大切だと思っています。心が動くこと、共感することでモラルが育っていくと思いますので、そのような機会や場をどんどん作っていくことが大切です。そして子どものモラルを育てるのは大人の役割だと思います。」

また、現場を見てこられた経験から、次のようなアドバイスをいただきました。

「現場では、高齢犬もしくは子犬が体調を崩しやすく救命対象となるケースが多かったです。高齢犬に多いのは、日ごろの健康管理をしっかりされてこなかった結果ではないかとも感じるところがあります。動物病院との付き合いを大切にしておくことの重要性もありますから、とりわけ高齢に差し掛かったら、健康チェックを定期的にされたほうがいいと思います。また、避難所に犬と同行することになりますと、狂犬病の予防接種やワクチン接種をしている、ノミダニの駆除をきちんと行っているといったことがチェックされます。あらゆる面で、ペットに有利になる備えを普段からしていただくことが大切です。」

心肺蘇生法の手順を実際に披露してくださいました。いざという時のために、犬の飼い主としてできるようになっておきたいことのひとつだと実感。そして人にとっても犬にとっても、酸素は救命率に大きくかかわる大切なもの。だからこそ、まずは酸素マスクを日本のすべての消防車に配備できるようにしたいとサニーさんはいいます。

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「福岡県に住んでいた時には秋田犬のジロー、ジャーマン・シェパードのメリー、マウイ島ではトイマンチェスターのナナなど、これまで3頭の犬たちとのステキな思い出がたくさんあります。猫も8匹、ヤギのルミちゃんもいました。今はベンガルのピカソ(♂)とライム(♀)と暮らしていますが、いずれゴールデンドゥードルを家族に迎え、ペットの救急法の普及活動のバディーとしても一緒に暮らしたいと思っています。ですが出張が多いことや、現在の日本の公共交通機関は大型犬の利用が難しいので、検討しているところです・・・いずれは!ですね。」

自らの腕の中で、1,500名あまりもの人々の最期の言葉を聞き、命を見送ってきたというサニーさん。それは一般の人々には想像にも及ばない壮絶な経験だったと思います。

「とにかく命を大切にして欲しいと思っています。すべては1(イチ)から始まりますよね。いろいろな1がありますが、それを知っていれば事故など多くのことを免れることができるのですよ。だからこそ、日ごろから防災の目を養い、備えておくことの大切さ、防災の大切さを伝えていきたいのです。そして同じ生命の周期に生きている仲間ですから、ペットのことも大切にしていただきたいと思っています。」

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【サニー カミヤさんプロフィール】
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
◆ペットセーバー(ホームページFacebook

 

(本記事はdog actuallyにて2016年7月26日に初出したものを一部修正して公開しています)

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