地震、雷、火事、おやじ…、じゃなくて獣医

文と写真:藤田りか子

何が起きても動じないメンタリティを培う。地震が来ても、獣医さんの診察台に乗せられても…!

自然災害がおきたときなど、ペットと同伴して避難ができる場所が最近いくつか提供されているようだ。飼い主にとってのペットの存在という価値が、過去の教訓を通して徐々に一般社会に理解を得始めているということだろうか。小さい一歩ながらも、「ペットと人が共存する社会」への前進の証と捉えたい。

ただし、せっかく社会が受け入れてくれたものの、避難所に連れてきたら、そこで犬がおしっこをするので、迷惑になり、出て行かざるえなかった、というようなケースもあったようだ。それはネットを通して知った。本当かどうかは知らない。私はこの通り遠く離れたスウェーデンにおり、現場での実際の状況を察することが難しい。でも、ふと、

「ここに飼い主の犬のしつけ方に対する責任もあるだろう」

「犬にしてみれば、地震の状況も獣医に行くのも同じだ」

という考えがよぎった。これは要するに

「いつもとは違う状況にペットは身を置かなければならない」

いうことに私たちは何か予防策を講じてきただろうか?

違う状況でも、できるだけ普段に近い落ち着きを持って愛犬が行動してくれれば、というのが我々の願い。それをどうやって可能にするのか?いつもと違う場所に来たから、急におしっこをあちこちにしてみたり、神経質になるあまりに、うっかりあらぬ場所で下痢便を粗相してみたり…。これらをできるだけ避ける方法はあるのではないか。

月に何回か参加しているショー・ハンドリングトレーニングでは、最後に皆でお茶をするのだが、この時も知らない犬同士が隣り合うことになる。いざという時、例えば避難所に住まなければならない時には、ここで培った環境トレーニングがものを言う時があるだろう!

災害が来た時に備えて、人のための必需品はもとより愛犬のフードや水も備蓄する、という風潮は随分広まっているようだ。その点、スウェーデンにおいては全くそんなシナリオを考えて準備する人はいないから、この点日本を見習うべきだと思う。

さらに食料や水と同じぐらい重要な準備がある。愛犬のメンタリティ鍛錬の部分だと思うのだ。日頃から、環境訓練を重ねていれば、たとえ地震が来たり、いざ違う場所に住むことを余儀無くされても、環境強さのおかげで怖さや心配を克服しやすくなる。環境強い犬は、安定して、落ち着いていられる。落ち着いているが故に、学習もさらに入りやすくなる。というわけで、環境トレーニングを正しく、そしてたくさん受けた犬は、全く受けていない犬よりも数段にストレスに上手に対応ができるようになる。

さて、そういう緊急時に対して、皆さんの犬は、どれだけメンタル面が鍛えられているだろうか?獣医さんで怖がらない犬にする、というのも、特に獣医クリニックでトレーニングを受けなくとも、様々な環境で飼い主とポジティブに体験をしながら新しいものを克服する、という習慣がついていれば、大抵は達成できるものだ。もちろん、手術などによってつらい思いをしたがために、獣医を恐れるようになる、というのはまた別の話ではある。しかし、注射一本刺される程度、口を開けられることや、脚や体を触れまくられることへの恐怖克服は、普段の環境トレーニングでも十分対応できることでもある(生まれつきよほど怖がりの犬を除いて、だが)。

スウェーデンのような安定した地殻に立つ国では、震災というのはまず考えられないシナリオなのだが、しかし、ヨーロッパで似たような状況をイメージするとしたら、例えばテロから戦争に至り、どこかに疎開しなければならない、というのが、日本で震災のために避難している人々の状況に近いところだろうか。そこで、愛犬がよりよく適応してくれるためには、と考えると、やはり環境強い犬が得だ、と結論せずにはいられなかった。知らない人が周りにざわつき、知らない犬も近くにいる。ドッグショーやドッグスポーツに連れて行くのは、環境トレーニングの一環としても捉えているが、まさに、この緊急時の状況によく似ている。会場でのショーのざわめき、狭いリングで他の犬や知らない人と隣同士になる。これがうまくできていれば、おそらく緊急時にも、それなりに気丈に対処をしてくれそうだ。

何か犬にとって恐ろしいことが起きても、飼い主は、「大丈夫よ~」などとやたらに撫で回したり、体に寄せたりして、犬を慰めたりしないこと。実は飼い主の不安感というのは、ホルモンとなって、犬に嗅ぎ分けられている。怖い状況になっても、なんてことない、という風に振る舞うのが犬にとっては一番の慰め。

もう一つ、緊急時において、飼い主が覚えておかなければならないことは、自分が怖いからといって、ペットにも「怖いね~、怖いね、かわいそうに、大丈夫よ、ママがいるから」などとやたら撫でたり、抱いたしてはいけないということ。こちらの恐怖心は、群れ動物の犬のこと、すぐにキャッチされてしまう。相手の怖がりがすぐにうつってしまう、というのは本来群れ動物として有利な特性でもある。群れの仲間が怖がっていれば、何か危ないぞ、という証拠。だから怖くなり、自分も逃げる。そうすることで生存確率を増やすことができる。人間は慰められることで、安心感を得るのだが、犬の場合、逃げる、という手段に出てしまうのだ。

おまけに最近の研究では人間からナーバスになっている時に出されているストレスホルモンを犬は臭いで感じ取っている、ということ。なら、なおさら、人間がシャきりとしていなければならない。異常なほどの心配や恐怖心を見せる犬でなければ一番良い対処法は、事をドラマチックにさせないこと。まるで普段の何でもない事のごとく振舞う。つまり、わざとらしく、いちいち話しかけたり、やたらと声高く話す必要もない。これは、雷や花火の時に怖がる犬への対処法としても、多くのトレーナーから提唱されている方法だ。

そう、犬にとって、怖いもの、地震、雷、火事、獣医は、飼い主次第でかなりの部分が克服される、ということでもある。

(本記事はdog actuallyにて2016年4月26日に初出したものを一部修正して公開しています)

【参考記事】

犬は人の感情を嗅ぎとり、その感情に影響されている
文:尾形聡子 たとえ表情や所作にあらわさずとも辛く悲しい気持ちでいるときに、愛犬が自分の気分を察知していると感じたことはありませんか...