オス犬のマーキング管理とインパルス・コントロール

文と写真:藤田りか子

穏やかな犬であれば、それほど気にならない問題なのだが、何かと反応しやすい犬(良きにつけ悪しきにつけ)、そして特にオス犬であれば、インパルス・コントロール(衝動を抑制する)トレーニングは欠かせないだろう。ハーモニックな散歩を実現させるためには、いくつかの衝動をコントロールしてもらう必要がある。好き勝手におしっこでマーキングしちゃだめ、好きな匂いがあるからって、勝手にリードをひっぱってその方向に走り出すのはだめ、発情期のメスは飼い主といっしょにいる時は無視すること…などなど!

こんな話をするのも、愛犬のラッコは、今まで飼ったどんなオス犬よりも、反応しやすい気質を持っており、私もそれなりに大きな努力を払ってきたからだ。ただし、こんなじゃじゃ馬な犬でも、やっぱりトレーニングを諦めずにつづけていけば、いつかは多少なりともインパルス・コントロールの入った犬になるものだ。

もしかして自分の愛犬の「じゃじゃ馬ぶり」を諦めかけている飼い主さんがいれば、私からのせめてもの助言は、「それでも諦めないように!」。そして自分では手に負えないと、訓練士に預けっぱなしにしないことだ。飼い主として、いろいろ知識をつけ、常に頭を使い、あれこれと作戦を練るべし。いずれ自分なりの答えがでてくる。ただし預けるのではなくて、いろいろなトレーニング・コースに参加するのは大事だと思う。そのたびに得られるトレーナーや他の飼い主の意見は自分のトレーニングの参考となる。

ラッコが完全とはいえなくとも、最近インパルス・コントロールができるようになったのは、あくまでも私と「協調関係」を持とうとする感情が芽生え始めているからだと思うのだ。トレーナーにすべて訓練を任せている限り、飼い主と犬の間の協調関係は生まれるはずがない。自分でトレーニングする、というのはとても大事なことである。

協調関係に基づかないでインパルス・コントロールを行おうとするとなると、犬を殴るとか、ややもすれば力づくで抑えることでしかその最終的な手段はないだろう。それで治る犬もいるかもしれないが、飼い主との信頼関係はどうなるだろう?私は、自分に向かって背を低くしながら、それも尾はやや両脚の間にいれたまま、スマなさそうに近づいてくる愛犬の姿など見たくない。

インパルス・コントロールは、実は環境トレーニングの一つと言ってもいい。その主旨は「いちいち、周りの出来事に過激に反応しないこと!」

過激に反応しなければ、気持ちが落ち着くから、衝動によって何かをするのも、控えることができる。

こうして、他の犬といっしょに犬のトレーニングコースをとることによって、徐々に、飼い主の側にいるのが、一番自分の落ち着ける場になるのだ、と学ぶこともできる。犬にこの感情を気づかせてあげるのも、インパルス・コントロールのトレーニングの一つである。

そして何かとがさつく犬を環境トレーニングする際の大基本。

その日の運動もさせないまま家から出して、いきなり犬がたくさんいる場所に行ったり、気の散るようなところに行ったりしないことだ。血気盛んな犬をトレーニングするには、ある程度、身体的にも十分ストレスを発散させている必要がある。私の場合、慣れた散歩道を使い、まずみっちり集中をした散歩を一時間半与えてから、環境トレーニングに臨むことにしている。

というのも、ストレス状態であまりにも刺激の多い場所にいつも行っていると、環境トレーニングどころかかえって余計なことを学ばせてしまう。つまり街にでれば「セカセカ」するのが癖になり、それが行動として身についてしまう。攻撃的な行動を身につけた犬が、向こうからきた犬をみただけでほとんど反射的に「ガウガウ」するのと同じ仕組みである。

ある程度身体を使わせた後で新しい環境に出せば、犬もそれほど興奮をしない。したがって頭の落ち着きを取り戻すペースは断然早い。そして新しい環境に出たときは、まずはゆっくりとその環境を犬に「経験」させてあげることだ。いきなり、座れ、つけ、伏せ、などやたらとコマンドを出さずに、最初はどこかベンチに座ってくつろぎながらいっしょに周りの環境を見てもらう。缶コーヒーやお茶などを飲みながら、とにかくゆるりとする。

このトレーニングは実はショードッグのハンドリング・トレーニングのコースで学んだテクニックだ。スウェーデンのことだからトレーニングをしていても途中にフィーカ(コーヒータイム)を入れる。そのときに犬を車に戻さず横に連れたままで休憩を行なった。人間がお茶などを飲んでいると、その落ち着きのムードは犬にも次第に伝播される。その後の練習で犬たちがとてもハーモニックになったのを覚えている。

時にあまりにも犬が興奮している場合は、その日はベンチでお茶を飲んでまったりと時間を過ごすだけでもよし。その間に犬に「座れ」などとコマンドを与えて、さらなるストレスホルモンを充電させないよう。飼い主も静かに声をかけたり、アイコンタクトをとってきたらトリーツを与える程度でいい。こんなことを繰り返していると(かなりの期間!)、犬は徐々にではあるが飼い主に自分の気持ちをゆだね始めてくるものだ。

「そうか、かぁちゃんといっしょにいれば、何も恐ろしいことなど起こることがないんだ!」

何も自分でアクションなどを起こさなくてもいい。何もせずただ街の雑踏に身を置くことができる、ということを学ぶ。そこに、飼い主の精神的サポートが活きてくる。

白い泡の唾液がだらだら。新しい環境に興奮している証拠。犬のストレスレベルを見ながら、環境トレーニングを行うこと。あくびをしているのは、今の状況を「わかったよ」と受け入れている証拠。しかし、ラッコの内心は「できるなら、すべてを嗅いで確かめたい!」初期の人混みでのトレーニングの一シーンから。

おしっこをあちこちにひっかける、地面をずっと臭わずにはいられない、というのは、自分の権利を主張しているというよりも、多くの場合、不安に駆られて自分の気持ちを落ち着けようとするために行われる。たとえば、ラッコはレトリービングのスポーツをしているとき、トレーニンング当初は新しい場所でダミーを回収させると、かならずおしっこをまわりにひっかけ回したものだ。これは新しい環境にきて、そして周りにたくさんの犬がいて動揺して何をしたらいいかわからなくなって急に頭が混乱。とりあえず、おしっこをして自分の気持ちを落ち着かせようとしていた、と解釈できる。

おしっこも済ませゆったりと犬をすごさせたら、その新しい環境を少し歩いてみよう。おしっこをしそうなそぶりをしたら、急いで止める!(ただしすでにおしっこをし始めた後では遅し。犬のボディランゲージをよく読むこと)。犬は落ち着けば落ち着くほど、集中力が増すから、たいして声を荒げなくとも飼い主の禁止言葉を聞けるほど、この頃までには心に余裕が持てているはずだ。そして落ち着いていれば、おしっこをあちこちにひっかける欲も少なくなる。

そしてなんでもメリハリが大事。おしっこをしてはならない、という規則を守ってもらうためには「おしっこをしてもいい」という規則もつくらなきゃ。さもないと犬にとって全体が把握できない。私はリードを長くすることで「好きに何をしてもいいよ!」という合図にしている。リードが半分の長さの時は、きちんと歩くこと。おしっこをそこらじゅうにひっかけちゃだめ、という合図でもある。

おしっこをしたい!という衝動の抑制は、こんな風なトレーニングを通して犬は学んでくれる。一旦学び始めたら、いちいち、ベンチに座って環境を見せることなどせずにも、雑踏を散歩することができるようになる。

インパルス・コントロールについては、トレーナーによっていろいろなバージョンがある。これはあくまでも私とラッコの例なので、みなさんも、自分でやり方を探るべきだろう。自分の性格、自分の愛犬の性格、そして各々の置かれている状況がある。トレーニング方法は一つだけではないのである。

(本記事はdog actuallyにて2015年4月30日に初出したものを一部修正して公開しています)

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