犬のにおい、あれこれ

文と写真:アルシャー京子

このところ犬仲間で「犬のにおい」について幾度か話題に上がることがあった。犬のにおいは、犬と暮らしているものにとってはけっこう慣れ親しんでいるが、犬と暮らしていないものにとってはけっして心地よいものではない部類の代物だ。

犬の被毛から漂うにおいの元は犬の皮脂で、犬は猫よりも皮脂分泌が多く、においも犬の方が猫より強いのが普通だ。皮膚から出される脂に皮膚からの排泄物や細菌が混じり、独特のにおいが作られる。においは犬種によっても差があり、水場での獲物回収を課題として作られたラブラドールや、シェパード、ビーグルといった全天候型の使役犬種は皮脂分泌の多い犬種であり、サイトハウンドのように乾燥した地域が原産の皮脂分泌の少ない犬種よりも基本的ににおいは強い。

においの強さだけでなく、犬種毎にもにおいの種類が異なるのが、犬好きにとっては興味深く、例えばボクサーにはボクサー特有の鼻に甘く絡むにおい、ラブラドールにはボクサーとは異なるほんわかとしたラブラドール臭がある。

もっと厳密に言うなら、同じ犬種でも犬が違えばにおいは若干異なる。うちの犬は普段ほぼ無臭に近いが、特に水に濡れるとそのにおいは顕著になり、どちらかというと人によっては苦手かもしれないガチョウのような家禽系のにおいがする。

皮膚から分泌される皮脂は犬にとって皮膚を守る大事なバリアであり、それぞれの生活環境に応じ発達してきたものであるから、それなりに意味を持つものなのだが、それが現代のように犬が原産国にとどまらず、世界各国いろんな地域で、しかも家の中で密接に人と暮らすとなると、犬のにおいは人との関係においてけっこう重要な位置を占めることになる。

昔、新聞のコラムで「人は人を好きになるとき、相手の体臭が決め手となる」という話を読んだことがある。それによると、人は無意識のうちに相手のにおいによって、恋愛対象となる相手を振り分けているのだという。きっとそれは犬が相手でもいえることで、犬のにおいが好みに合わないと、人は無意識のうちに犬に愛着を抱かなくなると思う。酷いケースだと「うちの犬はくさいからあまり側に置きたくない」と言い切る飼い主だっているくらいだ。

まったく無臭の犬なんて世の中にはいないのだし、普通にケアをしていれば多少のにおいなんてその犬のアイデンティティーのうちである。せいぜいにおいが強烈にならないように健康管理をしておきたいものだ。犬のにおいは精神的ストレスを受けると強くなり、また皮膚は一種の解毒器官でもあるから食餌内容や投薬でもにおいは影響される。ましてや脂漏症などの皮膚疾患だけじゃなく、腎疾患や代謝系疾患にかかった時には犬のにおいにも若干の変化が感じられるから、たとえにおいといえど健康のバロメーターとして日頃からチェックをしておくといいだろう。

そうだ、犬が「くさい」といわれるもうひとつのにおいの元といえば、犬の口臭がある。

犬の歯に歯石が付いていたり、歯肉が炎症を起こしていると、犬の口から魚のようなにおいが漂ってくる。若い犬よりも高齢になるにつれ口臭は強くなり、近くであくびをされたり、大型犬だと車内ではあはあとパンティングするだけでだんだんと車内の空気は重くなりにおいが充満してくるほどだ。

犬の口臭がくさいと思ったら、まずは歯石と歯肉のチェック。歯石がぺったり付いた歯だと、においの問題だけでなく歯肉や歯根、ひいては体全体の健康にも悪影響を与えかねないから除去が必要だ。

さらにもうひとついえば、お尻の肛門腺のにおいもくさい臭いの元なのだけど、まあこれは内容物を飛ばされない限りあまり被害がないから勘弁してやって欲しい。彼らにとっては大事なコミュニケーションツールのひとつなのだから。念のためにいうと、肛門腺のにおいも魚のにおいによく似ているけど、口臭に比べるとどことなくまろやかで、もしかすると「くさい」と感じる人は少ないかもしれない。

ただ、犬の目の前で顔をしかめながら「くさい、くさい」と連呼すると、それはそれで犬だって自分に文句が言われていることくらいは気付く。くさいと言われたところで犬自身はどうすることもできないのだから、どうせ言うならせめて笑顔で言ってやってほしい。人と犬の皮膚は性質が異なるから、頻繁に犬をシャンプーするにも限度があるので要注意。温かい濡れタオルで体を拭くだけでも犬のにおいはずいぶんと軽減する。

まちがっても家具用の消臭剤など犬の体に吹き付けたりせず、また噴霧式の消臭剤を部屋中に吹き散らすのは、犬にとっても人にとっても、長期になるとけっして無害とは思えないから、犬のにおいが気になるなら、できるだけ寝床を清潔に保つことをこころがけよう。そのためにも、犬の寝床には洗濯をしやすいタオルやカバーを掛けて、頻繁に洗うのがいい。

もし誰かに「犬の体で好きなにおいの場所は?」と聞かれることがあるならば、私はたぶんまず「後頭部」と答えるだろう。あの体臭と耳のにおいが微妙に混じり合った感じがいい。その次に好きなのはの足の裏におい。香ばしいというか、ちょっと汗臭いにおいはどこか懐かしささえ感じられる。その次は...だんだんマニアックになってゆくのでこの辺でやめておこう。みなさんは、いかがだろうか?

(本記事はdog actuallyにて2014年10月21日に初出したものを一部修正して公開しています)