睡眠時無呼吸症にかかりやすいのは短頭種だけではない、人用ネックバンドで検出

文:尾形聡子


[Image by Myléne from Pixabay]

短頭種の犬は頭部が丸い形状をしているがゆえに、外鼻孔狭窄や軟口蓋過長、気管形成不全などいくつもの病気が合併して上部気道が閉塞する気道閉塞症候群(brachycephalic obstructive airway syndrome:BOAS)という呼吸器疾患にかかりやすいことが知られています。BOASの呼吸器症状として、呼吸に雑音が混ざる、少し動いただけでハアハアしてしまう、いびきをかく、などが挙げられますが、睡眠時にはいびきだけでなく呼吸が停止したり浅くなったりする睡眠障害が見られることもあります。

短頭種の犬に多く見られるこの睡眠障害は、人の睡眠時無呼吸症候群のうちの閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:obstructive sleep apnea)に類似しているといわれています。OSAは睡眠時、上気道の部分的あるいは完全な閉塞により低呼吸や無呼吸が引き起こされ、低酸素状態が発症する病気です。睡眠時に何度も呼吸が止まるだけでなく、いびきをかく、睡眠中によく目を覚ます、起床時に頭痛や体のだるさを感じる、日中に強い眠気に襲われるというような状態を経験することも知られています。主な原因として、肥満、小さな顎、舌根沈下、扁桃肥大、軟口蓋下垂などの体型や骨格的なものに加え、飲酒、鼻炎なども危険因子です。年齢では、男性は40〜50歳代が半数以上を占めますが、女性は閉経後に急増する特徴があるそうです。

短頭種がかかりやすいBOASは解剖学的な丸い頭蓋骨を持つために生じ、さまざまな程度の上気道閉塞を引き起こすことから、睡眠時無呼吸症につながると考えられています。飼い主が認識する睡眠中の呼吸異常の徴候として、あごを上げた状態や座った姿勢で寝る、いびき、睡眠中の無呼吸、まったく眠れていない、などが報告されています。人と同様に、犬も良質な睡眠を得られないことは、長期的に健康に悪影響を及ぼすばかりか日々の生活の質の低下にも影響を及ぼすことが予想されます。

実際、短頭種の睡眠パターンを調べたハンガリーの研究では、鼻が長い犬と比べて睡眠の内容が有意に異なることが示されています。

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これまでの研究から、短頭種であること(すなわちBOASによる)が睡眠時無呼吸症を発症しやすい要因として示されていますが、それ以外の危険因子についてはきちんとした報告はありません。人と同様に肥満であることが発症リスクを高め、減量が効果的な治療法になるとも考えられますが、それははたして本当なのでしょうか。

そこで、フィンランドのヘルシンキ大学とタンペレ大学の研究チームは犬の閉塞性の睡眠時無呼吸症の危険因子を明らかにすることを目的とし、BOASの重症度の増加、加齢、肥満が発症因子になると仮説を立て、研究を行いました。


[photo by Chalabala]

睡眠時無呼吸症のリスク因子は?

研究者らはアンケートにより参加犬を募集し、1歳以上で体重が4kg以上の家庭犬63頭(短頭種28、中頭種/長頭種35)を研究対象に選びました。短頭種の28頭中19頭、中頭種/長頭種の35頭中14頭が、睡眠中に異常な呼吸症状を見せたことがあると回答されていた犬でした。ちなみに短頭種はフレンチ・ブルドッグ、パグ、キャバリアなど9犬種、中頭種/長頭種はラブラドール、ジャック・ラッセル、ミニチュア・シュナウザーなど15犬種と雑種犬が参加犬でした。

参加犬は自宅にて一晩、睡眠時無呼吸症候群をスクリーニングするために人用に開発されたポータブルネックバンド (Nukute Ltd.)を装着(以下写真参照、また、こちらから本体の写真が見られます)。デバイスに録音された睡眠中の呼吸音は、睡眠研究者が製造元の分析ソフトウェアを使用して分析、いびきをかいている時間の割合は聴き取りによって確認されました。さらにボディコンディションスコア、短頭種においてはBOASのグレードを評価し、飼い主が認識した睡眠時無呼吸症の兆候についても解析を行いました。


[image from J Vet Intern Med.Supporting Information S2] チラリと見えているのがネックバンド。デバイスが落ちないよう、保護カバーをつけて装着。

睡眠中の無呼吸について、人の場合は1時間に無呼吸または低呼吸の回数が5回未満であれば正常とみなされているため、カットオフ値は5回に設定されました。5回以上か5回未満かに分けて比較したところ、5回以上の犬において睡眠時無呼吸症の兆候として多く報告されていたものは、不眠、いびき、座ったまま眠る、おもちゃを口にくわえたまま眠る、睡眠中の無呼吸の5つの兆候でした。また、短頭種において、BOASにかかっている犬とかかっていない犬とを比較すると、これら5つの兆候すべてにおいてBOAS罹患犬の方が状態が悪い、あるいは頻度が高いことがわかりました。

いびきについて、総睡眠時間に対していびきをかいていた時間の割合は、すべての犬の中央値は3.2%だったのに対し、睡眠中の閉塞性呼吸が1時間あたり5回以上だった犬のいびき時間の中央値は23.1%、5回未満の犬では0.85%と大きく異なっていました。また、短頭種のいびき時間の中央値は21.8%、中頭種/長頭種では0.0%であることが示されました。


[image from J Vet Intern Med.Fig4] 総睡眠時間に対していびきをかいていた時間の割合。黒丸は中頭種/長頭種、緑の三角と青の四角は短頭種で、青の四角は中度あるいは重度のBOASの兆候があると診断された犬。

グループ全体で睡眠中の閉塞性呼吸の回数が増えることにもっとも有意に関連していたのは短頭種であることで、ボディコンディションスコアの「やや肥満/肥満」に分類された犬も有意なリスク因子として特定されました。人と異なっていたのは年齢です。研究者らの予想に反して加齢は睡眠中の閉塞性呼吸の回数の増加には関係していませんでした。また、性別や不妊化手術状態とも関連性はありませんでした。

短頭種グループだけで分析すると、BOASのグレードが中度より重い場合、そしてボディコンディショニングスコアがやや肥満/肥満の場合、睡眠中の閉塞性呼吸の回数増加と有意に関連していることが示されました。

今回の研究ではネックバンドのサイズの制限があり、首周りが25㎝未満の犬には使用できなかったことや、研究対象犬を選別した時点で睡眠時無呼吸症の兆候を示す犬を多く選択したため、研究結果が一般の家庭犬全般に当てはまるとは限りませんが、ともあれ、太り気味であることはBOASの危険因子であるだけでなく、睡眠時無呼吸症の危険因子でもあることは間違いなさそうです。また、研究者らは、今回年齢がリスク因子とならなかったのは若い年齢のBOASの犬が複数頭含まれていたことが影響しているのかもしれないと考察していました。

睡眠時無呼吸症の危険因子として短頭種であること、過剰な体重、BOASの重症度の増加が示されたと研究者らは結論しています。そして、睡眠中の呼吸改善のために、とりわけ短頭種は肥満を避けるよう注意すべきだと述べています。


[photo by magui RF]

今回の研究において、睡眠中の閉塞性呼吸が起こるのは短頭種だけではないことが示されました。人と同じく肥満は無呼吸のリスクを高めるだけでなく、さまざまな病気の発症リスクも高めますから、犬の適正な体重管理は飼い主のすべき大事なことのひとつだと強く感じます。

すべての短頭種がBOASを発症しているわけではなく、無呼吸の症状があるわけではないですが、いびきをかいたりすることが短頭種ならば当たり前だと思うことは犬の健康を損なうことに繋がるおそれがあるということを、すこしでも多くの短頭種の飼い主の方に知っていただきたいと思っています。そして短頭種は呼吸器関連の症状だけでなく、さまざまな病気との関連性があることが指摘されています(以下の記事を参照)。

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適切な睡眠が得られない悪影響は誰もが一度は感じたことがあるはずです。それが毎日、慢性的に続くとしたら、生活の質の低下は避けがたいものになってしまうかもしれません。人も犬も健やかな睡眠が取れるように心がけたいものですよね。

【参考文献】

Evaluation of risk factors for sleep-disordered breathing in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2024, 38(2):1135-1145.

近畿中央呼吸器センター

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