聴覚や視覚に障がいを抱える犬に特徴的な行動とは?

文:尾形聡子

[photo by Bram]

遺伝的な原因により生まれつき聴覚や視覚に障がいを抱えている犬がいることは、みなさんもよくご存じと思います。聴覚や視覚の問題は、牧羊犬に多く見られるマールや、ダルメシアンのスポット、グレート・デーンのハルクインなどの毛色と密接に関係していることがこれまでに示されています。毛色をつくる色素細胞は、毛の色のもととなるメラニン色素を産生するだけでなく、正常な聴覚や視覚を持つための働きもしています。そのため、メラニン産生に関わる遺伝子に変異が起こると、同時に聴覚や視覚へも影響が出てきやすくなるのです。そのほか犬の眼疾患には、遺伝的な要因が大きく影響を及ぼす遺伝性白内障や PRA(進行性網膜萎縮症)があり、若齢または中齢で視力を失うケースも少なくありません。

先天性の眼球の形成不全などは見た目にも明らかなことから気づきやすいものです。しかし聴覚に異常がある場合、とりわけ片側だけに難聴がある場合は、生活をともにする飼い主ですら気付かずにいることがあるのも現状です。さらに両方の耳に問題がある場合には、耳が聞こえにくいという健康上の問題を抱えている可能性があるかもしれないと考えるよりも先に、人の言うことを聞かない犬だというレッテルが貼られてしまうこともしばしばです。

では、先天的もしくは後天的に聴覚や視覚に障がいを持つ犬には特徴的な行動がみられるものなのでしょうか。もしみられるとするならば、目や耳に障がいを持つ犬の福祉をどのようにして守っていくべきかという指標ともなるでしょう。

これまでそのようなことについての科学的な調査はほとんど行われてきませんでしたが、アメリカのイリノイ州立大学の研究者らが、聴覚や視覚に障がいを持つ犬と健康な犬との行動の比較研究を行い、結果を『Journal of Veterinary Behavior』に発表しました。

目や耳に障がいのある犬は過剰に吠えやすいかもしれない

調査は、犬の行動解析システムである C-barq への回答、犬種、トレーニング方法、健康状態について、461頭の犬を対象に行われました。何らかの障がいを持つ犬はそのうちの183頭で、耳が聞こえないもしくは聞こえにくい犬が98頭、目が見えないもしくは不完全な視力の犬が32頭、聴覚と視覚両方に障がいを持つ犬が53頭でした。

その結果、障がいを持つ犬と持たない犬とではまったく同じではないものの、非常に多くの類似点があることが示されました。基本的な気質において差がみられたのは、障がいを持たない犬は持つ犬と比較すると、より攻撃的で興奮しやすい傾向にあるという点でした。さらに細かく比較すると、障がいを持たない犬はウサギを追いかける、糞のうえに転がるという行動特性がみられる傾向が高く、障がいを持つ犬は過度に吠える、自らを舐める、糞食をする、不適切な物を噛むという行動特性があらわれやすい傾向にあったそうです。


[photo by Mara 1]
ホワイトボクサーは聴覚に問題がある可能性が高いことでも知られている。

これについて研究者らは、聴覚や視覚に障がいを持つ犬にみられる吠えや噛みの行動は、耳や目から入ってくる情報の不足を補うための代替の行動と考えられ、本質的には自己刺激行動(恒常的に特定の刺激を自ら作ることで、外界からの刺激入力を遮断する行動のこと)的な行動のあらわれのようでもあるといいます。

そのため、聴力や視力に問題がある犬の飼い主は、犬に充分な感覚的刺激が入っているか確かめる努力をすべきことを示唆する結果だとしています。具体的には、犬の脳を活用するようなトレーニングセッション、振動するおもちゃやコング、噛んで遊ぶおもちゃなどで、環境を豊かに生活を充実させるような工夫をするようにと研究者らは提案しています。

もちろん障がいの程度にもよりますが、そのような犬でも多くはノーズワーク、アジリティ、フライボール、オビディエンス、ドッグダンスなどにも参加することができます。ですので、ドッグスポーツを楽しむ機会をどのような犬にも広く開放することが、すべての犬の健康と福祉につながるとしています。

犬の視覚や聴覚に問題がある場合には、それらをカバーするような生活環境やトレーニング方法が必要となりますが、人が案ずるよりずっと、犬は順応性の高い、逞しい生き物だとも思うのです。

(本記事はdog actuallyにて2014年9月22日に初出したものを一部修正して公開しています)

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【参考文献】

Behavior of hearing or vision impaired and normal hearing and vision dogs (Canis lupis familiaris): Not the same, but not that different. Journal of Veterinary Behavior
Volume 9, Issue 6, November–December 2014, Pages 316-323

【参考サイト】
Companion Animal Psychology