ブルブルの科学

文:尾形聡子


[photo by robfry2000]

犬はひとたび全身が水で濡れれば、体をブルブルと揺り動かして水分を振り払おうとします。川遊びや雨に濡れたあと、シャンプーをしたなど、犬と一緒に暮らしていれば愛犬の「ブルブル姿」はよく目にするものです。教えずとも自然に出てくるこの行動に、とりわけ驚くこともないでしょう。

どんな犬も、そして犬に限らず被毛を持つ哺乳類は身体についた水滴を取り去るために「ブルブル」をします。しかし、どの動物もブルブルの仕方は同じなのでしょうか?

そんな疑問に答えるべく、アメリカのアトランタにあるジョージア工科大学の研究者らは、犬はもちろん体の小さなマウスやリス、アトランタ動物園にいる大きなトラやクマまで16種のびしょ濡れの動物たちがブルブルする様子を高速ビデオカメラで撮影して解析を行い、その結果を『Journal of the Royal Society Interface』に発表しました。

ブルブル上手な動物たち

ブルブルの解析から、それぞれの動物はなるべくエネルギーを浪費しないように、ブルブルする速度を調節していることが分かったそうです。被毛についた水を取り除くためには、表面張力以上の力が加わるように身体を振る必要があります。そのためには身体の半径が小さい動物ほど速くブルブルする必要があり、大きくなればなるほどブルブルにより発生する力も大きくなるため、速度はゆっくりとなるそうです。

また、皮膚のたるみによっても差が出てきます。皮膚がたるんでいない場合よりたるんでいる方が、ブルブルしたときの振れ幅とスピードが増加するため、より効率的に水滴を取り払うことができるそうです。さらに、皮膚のたるみ具合によって異なるものの、加えられた力の10~70倍もの遠心力が作りだされるそう。動物たちは遠心力によるダメージを受けないようにするために、ブルブルするときには目を閉じていることが多いのだとか。

今回研究対象となった大型犬の場合には、たったの4秒で体についた70%もの水を振りはらうことができ、1秒間に4.3回ブルブルしていました。また、小型犬は5.8回、調査された動物の中でいちばん体の小さなマウスは超高速で、なんと27回もブルブルしていたそうです。

動物たちは、濡れた体から水を振り払うのに最小限のエネルギーを使うだけですむよう上手に対応しています。これぞ本能行動です。というのも、水滴を振り払わないでいると被毛についた水が蒸発して体温が下がってしまいます。それが寒い気候の中であればあるほど、低体温症にもなりやすくなってしまうのです。

一度下がってしまった体温を正常な高さまで戻すには、その分エネルギーを余計に使わなくてはならないことになります。ブルブルの動きに必要なエネルギー量そのものを最小限に抑えるだけでなく、トータルで無駄にエネルギーを消費しないようにするための、いわば生きる術でもあるのです。

それにしても動物たちは皆、とても器用にブルブルしているものなのですよ。美しき青きドナウの優雅なメロディーにのってブルブルする動物たちの姿に芸術性さえ感じてしまう映像を、皆さん最後にお楽しみください!

(本記事はdog actuallyにて2012年9月26日に初出したものを修正して公開しています)

【参考サイト】
Nature News