犬のボディランゲージが見えてくる

文と写真:藤田りか子

この一見、なんでもないシーン。この中に、どんなボディランゲージを読み取ることができるかな?左の犬の存在にも注目!

犬のボディランゲージについては諸々解釈があるところだろう。ある人が犬の前に立ちはだかったとしよう。そのとき、犬の耳がすぐに後ろに引かれたとする。これを見て、

「これは謙虚な気持ちを見せるボディランゲージだよ」

という解釈をする人もいれば

「これは、怖がっているシグナルだ」

とか

「いやカーミングシグナルだ」

と言う人もいるだろう。

犬のボディランゲージの本をいっしょに作ったデンマークの犬行動コンサルタントのヴィベケ・リーセさんといっしょに犬をたくさん観察をする機会があった。そのときに写真を見ながら彼女の解説をききつつ感動したのは、解釈そのものよりも、犬の一つ一つの動向や動作の違いにすぐに気がつくところである。こんな観察眼もっていたら、さぞ楽しいだろう..。それはこんな感じである。

「ほら、今犬Aが耳を後ろに引き、眼を細め、やや体を低くしたでしょう。すると、見て御覧なさい。今まで尾を下げていた対する犬Bの尾があがった。そして重心が後ろにあったのに、今度はやや前よりじゃない?」

あ、そういえば本当だ…!私がうっかり見逃しているのは、まさに犬Aの行動に対する犬Bの反応なのである。あるいは犬Bに対するAの反応だ。ひとつひとつのボディランゲージが、おのおのの状況に呼応して、次々と感情を表して、次々と表情を変えている。なぁんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう!

ある人は、犬をどうしても読めない人を

「犬の気持ちになって考えてないからよ」

となじることもある。いや、我々飼い主というのは、日々切磋琢磨しながら、愛犬と気持ちを通じ合わせようとしているはずだ。ただし、それほどの善意をもちながらも、通常の人間の眼にはどうしても「はっきり」と映らない事柄もあるのだ。ヴィベケさんの話を聞きながら、なんとなくテンプル・グランディンのことを思い出した。

テンプル・グランディンは自閉症なのだが、牛や馬の気持ちがわかるアメリカの動物行動学者として多くの本を著している。たとえば牧場の牛が、カーボーイが追い立てても、どうしても納屋のあるところで止まってしまい、それ以上前に進まない時。その問題を解決するために、たびたび彼女は牧場主から招かれた。というのも、女史は納屋の構造や牛のおかれている環境を牛が見るとおりに「見て」、それを「読み解く」ことができるからだ。

彼女に言わせると、動物とちがって「通常」の人は、世界の事象を見るときに、知覚すべき映像をフィルターにかけてしまっているという。つまりすべての詳細を脳に焼き付けることがなく、自分にとって必要なことだけを選んで「見て」いる。その点、彼女はフィルターにかけず、動物が世界を見るとおりに、すべての情報を視覚という知覚に取り入れて、見ることができる。よって牛が怖いと思っている、例えば地面や囲いで光が反射している部分を容易に見つける事ができ、それを取り除いたとたんに牛はスムーズに前に動き出した、というエピソードは有名だ。

大きなローデシアンリッジバック(左)が、スタフォードシャーテリアのお尻を嗅いでいる、というのは誰にでも見えることなのだけど、その詳細と、さまざまな犬同士の反応については、意外に私たちは多くを見逃しているもの。ここではちなみに、テリアの長い口角と、ローデシアンの短い口角の比較ができるというものだ。

私たちの多くは、犬の行動をみながらも、おそらく同じようにフィルターにかけてしまって、犬の反応が見えない状態にあるのだと思う。その見えないものに対して、これだよ、と改め犬を読める専門家たちは指をさしてくれた。そしていったん、見え始めると、私のような素人にも、次々と犬が感情を体に表しているのがわかり始めるから楽しい。

(本記事はdog actuallyにて2011年9月14日に初出したものを一部修正して公開しています)

【関連記事】

無言で微妙、犬言葉
文と写真と動画:藤田りか子 犬が出すミクロ表情を読み解く 我が家にいるラッコ(4歳)とアシカ(6ヶ月)のやり取りを見ていると、彼らの会話は大げ...

【関連書籍】