犬の歯と歯みがき (2)

文と写真:アルシャー京子

口腔内の健康度、B君の場合は?

歯垢が溜まるとどうなるか?

犬もヒトも毎日歯に歯垢(Plaque)が付く。ヒトの場合毎日数回の歯みがきで歯垢は取り除かれるが、犬の場合は自分で磨くことをしないためにどうもおろそかになりがちで、日々歯垢は溜まる傾向にある。

この歯表面に付いた歯垢はバクテリアやその代謝物、唾液成分、口腔内の分解産物、細胞などを含む「バイオフィルム」である。歯垢が付くか付かないかは食べ物によるものではないことが知られており、つまり「絶食しても歯垢は付く」ということ。

歯みがきによって一旦は取り除かれても、数分後にはまた付いてしまう代物だ。

ややこしい歯垢の付着機序については話を省くとして、健康な歯肉を持つ犬の歯垢には好気性菌通性嫌気性菌が善玉菌として住み、そして歯垢が溜まるとそれだけバクテリアを多く飼うことにもなる。

歯について放ったらかしにされた歯垢に嫌気性菌が繁殖すると歯肉炎を引き起こす原因となるだけでなく、不快な口臭の原因となる。

歯根部分にこってりと付いた歯石(薄茶色)とその上にへばりついている歯垢(灰色)、歯肉は押し上げられ炎症を起こし、歯はぐらついている...どうりで臭いはずだ。見事というか、でも見てはいけないものを見てしまったような気分。

歯石が出来るとどうなるか?

歯垢は歯肉からの分泌物と血液によってミネラル化し、やがて歯石(Odontolithiasis、Calculus)となる。この歯石の表面は見たとおりざらざらしており、このざらついた表面にはさらなる歯垢が付きやすく歯石表面は常に歯垢で覆われてゆくことになる。やがて古い歯垢は歯石化しその上にどんどん歯垢が溜まり歯石は「雪だるま式」に増えてゆく。

「歯石が溜まるとよくない」といわれる理由は、このざらついた表面に歯垢が溜まり歯肉炎のお膳立てをすることにある。ただ放っておいただけではなくならないからやっかいなものだ。

また歯肉や口腔粘膜を押すほどに成長してしまった歯石はその表面のざらつきにより歯肉や口腔粘膜を傷め炎症の原因にもなるほか、一度押された歯肉はもう元に戻らないため剥き出しになった歯根により歯は土台を失いいつかは失われてゆく運命を辿る。もちろんその際には痛みを伴うので、犬はその痛みにより物を噛む事ができなくなる。

[Photo from de.wikipedia.org]

歯石が出来たらどうしたらいい?

歯石は歯肉表面と癒着して育つため、下手に取り除いては歯肉を傷め、運が悪ければ歯石・歯垢の中に巣食っている細菌どもが血液へと進入するほか、歯肉が傷つき炎症を起こすとこれまた歯石が作られやすい条件にもなる。

薄い歯石ならばスケーラーを用いて自宅で取り除くという手もあるが、その際愛犬が大人しくしていられることや飼い主自身スケーラーの使い方などを知って置く必要がある。さもなくば思いもよらぬ事故に繋がりかねないからだ。

もしも手先に自信がなく、また愛犬の対応にも自信がないのならば無理せずかかりつけの獣医さんにお願いしよう。

歯石とスケーラー。

そして大きく育ってしまった歯石の場合、あるいは大きくなった歯石により歯肉が押され炎症を起こしている場合には、歯石が覆いかぶさっている歯そのものが歯根がむき出しですでにぐらついていることが多く(そう、例えばB君の場合のように...)、こういった場合には打つ手もないのであっさり諦めて全身麻酔下で抜くしかない。

ただ、いくらよくないとされる歯石でも歯の表面が薄っすら茶色くなったくらいで大騒ぎしたり、ましてやそれっぽっちの歯石を全身麻酔かけてまで取り除くというのは少々大袈裟であると私は思う。

そんな時、事態を悪化させないためにどうしたらいいか?これについてはまた次回。

(本記事はdog actuallyにて2009年6月2日に初出したものをそのまま公開しています)

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