ミネラルと犬 (3)

文と写真:アルシャー京子

体に必要なミネラルとはなにもカルシウムばかりではない。

マグネシウムは多くの代謝や筋肉活動において酵素反応に欠かせない分子だし、ナトリウムとカリウムは体の浸透圧を保ち、微量元素の鉄がなければ赤血球は作られず、亜鉛は健康な皮膚と被毛にはなくてはならないものである。

ナトリウムを含む塩分に関しては過去に「塩分と犬」でお話したのでそちらをご覧いただくとして、残りのミネラルについてちょっと駆け足で見てみよう。

体に鉄分が不足するとまずだるくなる。これはヒトも犬も同じ。食べているのに今ひとつだるさが抜けないと言ったとき貧血気味であったりするのだ。犬の赤血球の寿命は約90日、体内の鉄の3分の2はこの赤血球中のヘモグロビンとして活用されているほど全身に酸素を供給する赤血球の生産には鉄が欠かせない。一日に約1.4mg/1kg体重が必要とされている。

ここでまた体重10kgの犬を例に挙げて考えてみると一日14mg摂ることが目安、それを食材に当てはめてみると...牛のレバーならば約50g、脾臓(タチギモまたはチレと呼ばれる)ならば25g程度で充分賄われる。その他センマイ(第三反芻胃)も比較的鉄分を多く含む臓器である。

また赤身肉では牛よりも鹿や羊・馬肉の方が鉄分を多く含んでいるけれど、思っているよりも食材に含まれる量は少ないと言う印象だ。まあ、一番いいのは獲物の血をそのまま飲むこと...でも、それは無理。

一日に約0.1mg/1kg体重を必要とされる銅。換毛期や妊娠後期・授乳期にはその需要はさらに増す。

仔犬の時期に赤身中心の食餌を与えたり過剰なカルシウムを供給することは銅不足につながり、毛や皮膚の色素が退化したり貧血や軟骨組織形成にも影響するためO脚やX脚などが現れる一方で、ベドリントン・テリアをはじめいくつかの犬種において肝臓に銅が蓄積される遺伝病がある。

この疾患はウィルソン病(Morbus Wilson)と呼ばれ、肝臓内の銅蓄積濃度管理に関与する劣性遺伝病である。この劣性遺伝子が表現されると食餌とともに摂り込まれた銅は時間とともに通常の10-40倍量ほどにまで蓄積されていわゆる「銅中毒」を引き起こし、肝機能障害や肝硬変とともに神経症状を示す。

現在報告されているのはベドリントン・テリアの他、ウェスティーやドーベルマン、ダルメシアン、スカイ・テリア、ジャーマンシェパード、ラブラドール・レトリーバーなど。

これらの遺伝病を発症前に知ることができる DNA テストも普及してきているので、元気消失や体重減少・嘔吐、食欲減退・拒食が見られるときにはかかりつけの獣医さんに相談して一度検査してもらうのがいいだろう。

検査の結果もしも愛犬にウィルソン病が確認されたなら、その時はまず愛犬を繁殖に用いないこと、それが遺伝病撲滅の最善策となることを常に忘れないで欲しい。

遺伝病であるウィルソン病には対症療法しかないため、毎日の食餌に含まれる銅の量をできるだけ少なく保つことが必須となる。

はい、ここで一旦息継ぎして!ぷはっ!

[Photo by Areldos]

独特な毛質とカットが目印のベドリントン・テリア。

亜鉛

細胞内の代謝、特に細胞分裂において必須のこの元素、不足するとフケが多く出たり皮膚が肥厚したり(パラケラトーシス)、怪我が治りにくかったり。また競合相手であるカルシウムや銅の供給が過剰であるとき、亜鉛の吸収が阻害されることにより不足しがちである。

亜鉛を多く含む食材はやはりレバー、そして肉と骨。現実的には犬が体に必要なタンパク質の量に見合うだけの肉類を摂っているならば、亜鉛必要量のだいたい半分くらいが摂れているという感じになる。

マンガン、コバルト&Co.

微量元素の中でもマイクログラム(1gの100万分の一)単位で体に必要なのがコバルトとヨードとセレン。これらはマンガン同様に体内の酵素反応に関与している。必要量をあえて掲げるならばマンガン0.07mg/kg体重、コバルト5-10μg/kg体重、ヨード15μg/kg体重、セレン2.5μg/kg体重であるが、これらの微量元素はだいたいどの食材にもある程度含まれているので特に気にすることはない。とはいえだからと言って赤身肉ばかりを与えても良いことにはならないのだが。

マンガンは不足すると他の動物種では骨格の変化や生殖能力の低下、胎児の骨格奇形成などが見られるが犬では特に知られていない。

コバルトは腸内細菌によりビタミンB12(赤血球を作るのに不可欠なビタミン)へと作り変えられる。

ヨードは体のバランスをとる甲状腺ホルモンの構成分子。通常肉や穀物中に含まれているものでは供給は不十分とされ、できれば少量の昆布で補いたい。

セレンは比較的最近になって体内のフリーラジカルを不活性化する酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ)反応構成分子として必須ミネラルとして挙げられたもの。

とまあ、ざっと紹介すると微量元素はこのようなものである。

[Photo by Blog Red del Camino en R.D.]

全粒穀類を見直そう

食材の中で上記にあげた微量元素を多く含むのは動物由来ではまずレバー。鉄や銅、亜鉛の供給のためにいつもの食餌中のレバーの割合を上げてみるといいだろう。植物由来では野菜類にはこれらはほとんど期待できない一方で、オートミールや押し麦、アマランサスなど精白されていない穀類の皮の部分に微量元素は驚くほど多く含まれる。なのに私たちは栄養価値の高い部分をすべて研ぎ落とされた精白米や精白小麦なんていうただのでん粉を食べているのだ。ああ、なんてもったいない...

そういえば、小麦や大豆においてフィチン酸という物質は摂りこまれたミネラルに結合して吸収を妨げる。ミネラルを効率よく摂り込みたいならできれば肉類(と骨)は穀類とは分けて与えるか、あるいは穀物と一緒に与えるならば若干ミネラル量を増やしてやると良い。

まとめ

骨とレバーと全粒穀類、これらを組み合わせることにより犬の体に必要なミネラルは自然な形で供給される。そしてこれらのミネラル類はカルシウムの例に倣いいずれも体内に貯蔵されるので毎日きっちり摂ることはなく、それでも定期的に摂るべき栄養素である。

さてさて、駆け足で回ったので少々息切れ気味の私、もしかしてミネラル不足?

(本記事はdog actuallyにて2009年7月21日に初出したものをそのまま公開しています)

【関連記事】

ミネラルと犬 (1)
文と写真:アルシャー京子   さて、今回のお話は犬の食餌を手作りしている飼い主にとって気になる要素「ミネラル」について。 ミネラルとはカルシ...
ミネラルと犬 (2)
文と写真:アルシャー京子 近所の肉屋で犬用に売られているきれいにカットされた子牛の骨。骨を噛むことはミネラルの供給だけでなく歯の健康やストレス解...