ミネラルと犬 (2)

文と写真:アルシャー京子

近所の肉屋で犬用に売られているきれいにカットされた子牛の骨。骨を噛むことはミネラルの供給だけでなく歯の健康やストレス解消にも繋がり、犬として極めて自然な行為なのだ。

さてさて、今回は骨の話を。

骨の中身

骨と言っても実際には骨の中には髄がある。この髄が犬にとってはまたたまらなく美味いらしい。髄を含む骨の組成を子牛の例で見てみると水分が約20%、タンパク質が23%、脂質が21%で、ミネラルではカルシウム13%、リン6.2%、マグネシウムその他はいずれも1%以下。

骨、与えるならばどのくらいが適量?

ドイツで推奨されている犬の一日のカルシウム摂取量は体重1kgあたり100mg。髄を含んだ骨に含まれるカルシウムの量は約13%だから、目安としては一日に体重1kgあたり骨1gを与えていれば充分量ということになる。

体重10kgの犬で骨10g/日、手短な例を鶏の骨で挙げると10gの骨は手羽先一本分程度。
おまけに言えばなにもキバッて毎日与えることもない。前回お話したように体の中でカルシウムは骨に蓄積されているため体内の必要性に応じてカルシウムは骨から出たり入ったりして調節されているわけで、ただその骨の中のストックが空になってしまわぬよう、そしてある程度の量をいつもストックできるようカルシウムを摂ることが大事なのだ。

鶏の大腿骨(モモ肉がついている骨)で10gはこれくらい。

かといってじゃあ一度にまとめて大量に与えてしまえばいいかというと、もちろんそうでもない。一日の目安となる量の5倍を超えるあたりからまずウンチが白くポロポロになり便秘の原因となるから、時々与えたいと言ってもせいぜい3-4日おきくらいの間隔を保ちたい。

骨の頻度を上げるならばまず目安量を中心に、そして飼い主が実際に愛犬のウンチの様子を見て硬くなりすぎない程度の骨の量を見極めるといい。

何の骨がいい?

次に犬の食餌に適した骨の種類を挙げてみよう。

反芻動物の骨ならばできるだけ硬すぎない子牛や子羊の肋骨、尾骨などをオススメしたい。大腿骨などの長骨は幼獣とはいえ硬く、大型犬ならまだしも小・中型犬にはまず向かないどころか硬すぎて歯が折れてしまうのがオチなので無理は禁物だ。

鶏ならば手羽や頚骨が小型犬には向いている。

豚骨はどうだろう?日本では比較的入手しやすい豚骨、実はどの犬にも合うわけでもない。豚骨を食べて平気な犬もいる一方で、下痢をする犬も結構多くいるということを頭においてチャレンジしてみるのもありだ。

鶏の骨の話

面白いことに犬を飼っていない人でも「鶏の骨は犬に与えるな」という。さらに面白いのは国が違っても同じことが言われていること、私の住むドイツでも人は同じことを言うのだ。

それほどのトラウマを犬(と飼い主)に与える鶏の骨、本当に、絶対に犬に与えてはいけないんだろうか?それを紐解いてくれたのは解剖学だった。

鳥の体はそもそも空を飛ぶようにできている。空を飛ぶために毛は羽となって浮力を蓄え、そして足は細くなり、骨は空洞化することで軽量化された。このことは飛べない鳥である鶏でも同じで、飛べないとはいえ飛ぶための胸筋が発達していることを見れば納得が行くだろう。

昔、犬が家庭の残飯を食べて暮らしていた時代にはヒトは庭先で鶏を飼い雌鶏からは卵を取り、そして雄鶏ならば大きく育てて肉を食べていた。ヒトが鶏肉を食べた残りである骨は当然犬にも分けられていたのだが、肉をたくさん取るために雄鶏は時間をかけて大きく育つまで待たれ、そして雌鶏ならば卵を産まなくなったいわゆる廃鶏が肉に回っていた。

そう、昔食べられていた鶏はいずれも年齢のいった鶏ばかり。ここでもう一度鳥としての前提を当てはめると鶏の骨の空洞化は年齢と共に進むためこれらの骨は空洞化が進んでいる状態だったのだ。

はたしてここで何人の読者が「スープ用鶏がら」を扱ったことがあるかは分からないが、このスープ用の鶏がらこそ廃鶏のこと、年間300個以上の卵を産むため彼らの摂るカルシウムは骨に蓄積される以前に卵の殻として消費され、骨は著しく空洞化が進み長骨などはまるでストローのようになる。そしてこのストローのような骨は簡単に手で折ることができ、折れ口は鋭く尖るのだった。そりゃ昔のことだから「犬用にはお安い鶏ガラでいいや」なんて言って与えて骨が刺さった、なんてことは日常茶飯事だっただろう。

現在世界中で商業用に飼われている鶏は品種改良がされ卵用と肉用に分けられている。肉用として流通している鶏ならば経済性を考慮して給餌量に対する食肉部分の成長が最大になったときに出荷されることが多いため、昔の鶏よりも骨の空洞化が進んでいない状態で出回ることになる。また生後40-70日程度で出荷される若鶏ではまだまだ空洞化は進んでおらず、髄も造血が盛んで大変栄養豊かなのである。

年増の鶏は安価で味がある反面リスクも高いなんてちょっと皮肉に思えるけれど、値段に迷わされずスープ用の鶏ガラからは手を引くのが飼い主として賢明なところだ。

若鶏の下腿骨を割ったところ。赤い髄の部分、ここに造血に関わる未曾有の成分が詰まっている。

というわけで、鶏の骨もハナッカラただ否定するのではなく、むしろ賢く使える良い食材として愛犬に合ったものを選んで使うのがよいと思う。だって骨なしの食餌のほうこそ長い目で見れば怖いのだから。

また自然な状態から言えば鶏の骨は骨だけで与えるよりも肉つきで与えることで例え少々尖った部分があったとしても胃壁などを傷つけることがない。

もっと心配ならば骨付き肉を中華包丁などで叩き切ったり、ラブなど丸呑み系の犬などでは丸呑み防止のために飼い主自身が骨付き肉を手に持って愛犬に噛む癖をつけさせるといいだろう。その見極めはやはり飼い主自身のみができるということをお忘れなく。

少々大きめで飲み込まれた骨はしばらく胃の中に滞留し、やがて生理現象の一つとして吐き出されることになる。

次回はカルシウムとリン以外のミネラルについて注目してみよう。

(本記事はdog actuallyにて2009年7月17日に初出したものをそのまま公開しています)

【関連記事】

ミネラルと犬 (1)
文と写真:アルシャー京子   さて、今回のお話は犬の食餌を手作りしている飼い主にとって気になる要素「ミネラル」について。 ミネラルとはカルシ...