エネルギーと犬 (2)

文と写真:アルシャー京子

動きのベクトルが縦方向に向かい、さらに集中力をも要求されるアジリティーでは犬が消費するエネルギー量は多い。

さて、日常生活においてとりあえず体を維持して行くために必要とされるエネルギーの量について前回お話した

まさに犬の多様性を垣間見るような、そんなエネルギー消費の個体差を感じさせてくれるものだ。

今回は運動に消費されるエネルギーについてお話しよう。

筋肉の運動は常にエネルギーの消費と関係している。動く筋肉の量が多くなればなるほど、筋肉が動く時間が長くなればなるほど消費されるエネルギーは多くなるのだ。

究極の例をあげると橇犬のような長距離運動では「そりを引く」と「長距離を走る」という二つの負荷が体にかかり、膨大なエネルギー量が消費される。筋肉の収縮は筋肉細胞内におけるエネルギー物質 ATP の化学反応により起こるため、ATP を供給する原料(ブドウ糖・脂肪酸など)が運動の種類によって変わってくる。

運動の種類というのは時間と集中度、空間軸によって分けられ、同じ距離を移動するにしても歩くのと走って移動するのではエネルギー消費は違うし、その距離のベクトルを縦方向に持っていった場合(アジリティの障害物越えなど)にはさらに多くのエネルギーを消費することになる。

さらには四肢体幹の筋肉の動きだけでなく運動に伴う呼吸のための筋肉の動きや体温調節に使われるエネルギーも一緒に計算しなければならない。

ここでようやく数字の登場。平地をテクテク歩きで1km歩いた場合のエネルギー消費量は中型犬で1kg体重あたり約4.7kJ(キロジュール)=1.12kcalといわれ、小型犬ではもうすこし多くて約7.3kJ=1.74kcal/1kg体重、大型犬では歩数(筋肉運動)が少なくてすむので3.6kJ=0.86kcal/1kg体重の消費といわれる。

ちなみに1kcalは食材にしてみるとどれくらいの量になるかというと、

  • ご飯(精白米) 0.6g
  • うどん 1g
  • 食パン 0.4g
  • 砂糖 0.3g
  • ビスケット0.2g
  • ニンジン 2.7g
  • バナナ 1.2g
  • リンゴ 1.8g
  • イワシ丸干し 0.5g
  • 牛バラ肉(脂身つき) 0.2g
  • 鶏ムネ肉 0.4g

ということは体重10kgの犬が1時間(人の歩行ペースで時速4km)の散歩に出るときに消費されるエネルギーは約188kJ=44.8kcalで、ご飯にすると約26g、牛バラ肉で約9g、ビスケットなら1枚程度。「1時間も歩くんだから」といって食餌を大盛りにしているとエネルギーの供給過剰になるということ、また痩せるために1時間歩いたところでほとんど効果はないということだ。

ここでちょっとショックを受けた人、たぶんいると思う。

短距離のスプリントでは瞬時に ATP が使われ、細胞内のブドウ糖は乳酸へと代謝される(乳酸性無酸素的過程)。

これがギャロップ(時速16km以上)になるともうちょっと消費量は増え、中型犬で1kmにつき5.6kJ=1.3kcal。つまり自転車やジョギングで犬を連れて約1時間(約10km)走ればようやく560kJ=133.8kcal程度の消費となり、ご飯約80g(茶碗半分)、牛バラ肉約30gに相当するということになる...計算の上では。こうなるともう数字で遊んでいるとしか思えないくらい、思っていたよりもエネルギーは消費されないのであった。

こういった単調な平行運動よりも、若い犬なら他の犬とじゃれあったり、アジリティーをしたり、はたまた半日の山登りに出掛けたりする方がもちろんエネルギー消費量は多くなる。

次回はドッグフードに含まれるエネルギー量を比較してみよう。

(本記事はdog actuallyにて2010年2月12日に初出したものをそのまま公開しています)

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