文と写真:藤田りか子
鼻をぺろり。犬のカーミングシグナル?それとも単なるストレスの表れ?[Photo by Laula Co]
カーミングシグナル、アカデミックな世界で検証される
90年代後半にアメリカで「カーミングシグナル」というコンセプトが犬に関わる人々の間で大いに沸いたことがあった。犬はカーミングシグナルという仕草を見せることで「私はあなたと敵対する意志はありません」という和平のメッセージを伝え、そうすることで相手からの挑発を避けたり余計な喧嘩に陥らないようにしている、というものである。そのメッセージは人に対しても常に出されており、それを理解して適した行動を犬にとれば、犬はより人を信頼してくれるようになる。
この行動を発見したのはノルウェーのドッグトレーナーであるテューリッド・ルガースだ。日本でも彼女のことを知る人は多い。カーミングシグナルの中で有名なものは、唇あるいは鼻をぺろりと舐める、ヘッドターンを行う、まばたきをする、あくびをする、などではないだろうか。
右から寄ってくるサモエドに対して体を横に向ける、という「カーミングシグナル」を出す白いシュナウザー。[Photo by Rikako Fujita]
それほど有名になったカーミングシグナルゆえに、2010年代に入ってとうとう学術世界においても真面目に取り上げられるようになった。犬の行動コンサルタントやトレーナーの間では「犬が出す平和のシグナル!」とドラマチックに語られてきた一方で、研究者たちは冷静にカーミングシグナルなるものはなんぞやと実験・観察・分析を通してその考察を行いはじめたのだ。
学識者たちの一番の関心ごとは
「カーミングシグナルは、本当にシグナルなのだろうか?」
という点であった。シグナル(=信号)として