ペットの死を受けとめるために〜礼を尽くして魂を送ることが心の整理につながる

文:サニーカミヤ


[photo from pixabay]

私が開催しているペットセーバー講習会(「ペットの救急法」と「ペットの防災について」)の受講者の方の職業は、ペット事業者、トリマー、ペットシッター、しつけトレーナー、ペットホテル運営者、動物看護士などのペット関連事業者、消防士(救助隊員、救急隊員)、看護士、そして一般の方々など実にさまざまです。

一般の受講者には、以前飼っていたペットが交通事故や転落事故、溺水事故、ペット同士のけんかにより瀕死の重傷を負ったときに何もできず、そのままペットの死に遭遇してしまったような経験をしている方も少なくありません。なかには、ご夫婦でやっと前に飼っていたペットの死の悲しさを克服し、新しいペットを迎える気持ちになって受けに来られた方もいらっしゃいました。

病気で長い間にわたって病床に伏しているペットとの別れは心の準備ができていることもあるかもしれませんが、突然の事故によるペットロスは、人生で忘れられない悲しい出来事になってしまいます。

消防現場でペットの死に遭遇したとき、不慮の事故でペットを亡くしてしまったとき、または一緒に住んでいたペットが天国に旅立ったとき。私たちはどのように受け止めればいいのでしょうか?


[photo from pixabay]

今日はペットの死の受け止め方についてお話しいたします。

ペットはかけがえのない友人であり、家族であり、心のよりどころでもあります。その死を迎えることはとてもやりきれない気持ちになると思います。

私はマウイ島に住んでいた20年間、牧師としてペットの散骨式(祝別式)の司祭を幾度となく行ってきました。それぞれの参列者が読みあげる「最後の手紙」を聞くたびに何度も涙があふれてきて、そのご家族がどれだけペットと楽しく過ごされたか、映像として垣間見ることができるほど一緒に生きた時間がいかに貴重で美しい人生の一部であったかが伝わってきました。

手紙を読み上げたあとは一人ひとりが、ペットの骨灰の入った水溶性の紙パックに別れのメッセージを書いたものを、祈りとともに、波打ち際まで届く夕日の光の道に託して流し、その魂を西の水平線に向かって送ります。

さざ波のやさしいお迎えにゆりかごのように揺れながら、骨灰の袋が徐々に溶けていき、波間を白く飾りながら、引き波とともにゆっくりと旅立っていきます。そのときに、参列者の顔が徐々に涙から笑顔になっていきます。


出典:YouTube/Sarah Brightman & Andrea Bocelli – Time to Say Goodbye (1997)

このような経験から、死の原因がどうであれ、飼い主として、また現場で最後のバイスタンダーとして、きちんとその死を受け入れ、礼を尽くして魂を送ることが心の整理につながると感じています。

ペットの死に遭遇したときには、小さくてもいいのでセレモニーをしてあげることで、お互いに心の整理がつくような気がいたします。

飼い主であれば想い出の場所に行って、別れの式を行うのもいいでしょう。現場の消防士であれば、ペットのご遺体が土やすすで汚れていれば、きれいな水で体を清めて手を合わせ、声は小さくてもいいので「安らかにお眠りください」など、魂に正対して別れを告げください。


[photo by Alison Benbow]

何もせずに現場から立ち去ったときの気まずい気持ちを引きずるより、今生きているペットたちの命を救えるように火災予防を教えたり、事故予防を伝えたりすることで、死が無駄にならず、魂が生かされると思います。

またそうすることで、飼い主による不慮の事故で命を落とした場合や現場で助けられなかった場合でも、恨んだりすることなく、逆に一緒に過ごした時間に対して「ありがとう」という気持ちで旅立っていくのではないでしょうか。

よく、「これ以上悲しい別れをしたくないからペットを二度と飼わない」という方がいらっしゃいます。確かにその気持ちは深く察しますし、辛い思いをされていることも伝わってきますが、それと同時に「きちんとお別れを行っていないのではないのか?」と思うことがあります。

次のビデオをご覧下さい。


Dealing with pet Loss(出典:YouTube)*英語になります。

彼女はとても上手に、心を込めてペットとの別れを行い、ペットとの想い出のアルバムを作ったり、一緒に過ごした日々の日記を読み返したりしています。また、家族とともにペットを受け入れた日のビデオを見ることで自分の悲しい気持ちを解くとともに、天国のペットに今でも愛していることを伝えています。

また彼女は「なぜ、ペットが長生きしないのか?」を伝えています。それは「人間がよい存在になるためにはとても長い時間が必要だけど、ペットは短い命でも毎日を楽しく生きることを知っている」からだそうです。さらに以下のように続けます。

「ペットは飼い主がどのような見かけでも、性格でも、お金がなくても、どのような仕事でも差別することはありません。ペットが唯一知っているのは、飼い主への愛し方です。どうぞ、一緒に暮らしているペットとできる限り一緒に過ごしてください。人間は自由にどこにでも簡単に行けますが、ペットはうちであなたの帰りを待っています」

とてもステキなメッセージですよね。

消防士が現場で遭遇するペットは、ただの犬や猫ではなく、飼い主との深い愛と固い絆で結ばれている存在でもあります。どうぞ、飼い主のためにも一緒に助けてあげてください。

すでに飼い主の方、これからペットとの生活を考えていらっしゃる方は、どうぞ「ペットの救急法」や「ペットの防災」についても身につけてください。きっと、人生でかけがえのない楽しい時間を、思いっきりペットと過ごすことができると思います。

最後に、私がレスキュー隊や救急隊員時代に、私の腕の中で息を引き取った方々へ送っている大好きな歌の一つをご紹介いたします。


出典:YouTube/ Jackson 5-I’ll Be There

みなさんのペットライフがかけがえのないものでありますように!

本記事はリスク対策.comにて2016年12月13日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本国際動物救命救急協会代表理事。一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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