文:尾形聡子
[photo by Scott 97006]
動物は各感情状態をあらわす「表情」をそれぞれに持ちます。非言語コミュニケーション手段であるボディランゲージは犬の感情表現に重要で、目や口など顔面にあるものだけでなく、耳や尻尾、体の向きや頭の位置など体のあらゆるパーツを使うことが知られています。
ですが人の場合、顔の表情は人の感情を推測する鍵となるため、人同士がコミュニケーションを取る際には相手の顔つきに注目しがちです。むしろ、相手の顔に視線を向けず、手や足など体ばかり見ていたら、おかしな人だと思われてしまうことでしょう。そのような習慣がついていることから、人は犬の様子を観察するときにもついつい「顔面」に注目しがちであることがこれまでの研究により示されています(「犬の感情を読むときの視線の先、意識していますか?」参照)。
とはいえ犬も、大なり小なり感情を顔に表現している生き物です。2019年には、犬は進化の過程で目の周りを動かす筋肉(levator anguli oculi medialis muscle:LAOM)を発達させ、眉頭を上に持ち上げるような表情ができるようになったことが示されています。詳細は以下のリンク先、Newsweekの記事をご覧ください。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/post-12400.php
犬の顔の表情を含めたボディランゲージの解読は進められているものの、科学的には完全に体系化されておらず、受け取り手によって感情の解釈にばらつきがあるのが現状です。そこで、イギリス・ドイツ・アメリカの研究チームは2013年、犬の顔の表情を解析するための「DogFACS」と呼ばれるシステムを開発しました。DogFACSは、人の顔の表情に関する研究のために解剖学的根拠に基づいて構築された「Facial Action Coding System:FACS」をベースとしているもので、現在犬のほか、チンパンジー、アカゲザル、テナガザル、オランウータン、猫、馬についてもそれぞれのFACSシステム「AnimalFACS」が提供されています。
2019年、スイスのベルン大学とイギリスのリンカーン大学の研究チームは「DogFACS」を使い、ラブラドール・レトリーバーのポジティブな期待を抱いているとき(ポジティブ感情)と、フラストレーションを感じているとき(ネガティブ感情)の顔の表情を識別したことを発表しました。それぞれの感情を引き出すためにおやつが使われ、おやつをもらえる期待感(ポジティブ感情)と、目の前におやつがあるのに食べることができないフラストレーション(ネガティブ感情)を抱いたときにみせる表情は以下のように区別されました。