文:尾形聡子
[photo by Craige Moore] ブリタニー・スパニエル。象徴的なマズルの点々こそティッキング。
毛色マニアの方にはきっとお馴染みであろう、偉大なる遺伝学者C.C.リトル博士。博士は仕事のひとつとして犬の繁殖データをもとに毛色遺伝研究を行い、1957年に一冊の本としてまとめあげました。その業績は今もなお、毛色遺伝の研究者や犬のブリーダーにとって教科書的な存在です。
出版時はDNAが二重らせん構造をしているという大発見があった数年後。もちろんDNAレベルでの遺伝子解析などできるはずがなく、博士が仮定した毛色遺伝子の多くは犬の全ゲノムが解読された2004年以降に明らかにされてきました。そこから17年という月日の経過とともに、ゲノム解析機器も飛躍的に進化。さらについ先日には、スウェーデンの研究チームが犬の全ゲノム情報(リファレンスゲノム)をアップデートし、正確性を増したものが公表されました。このような状況から、今後より一層、犬ゲノム研究が進んでいくことが期待されるところです。
新しい犬ゲノム情報の公表と時を同じくして、リトル博士が仮定した毛色の遺伝子座が明らかになったという論文が立て続けに2報発表されました。ティッキングとローン、そしてダルメシアンのスポット(ティッキングの一種)に関する遺伝子です。博士はティッキングをT遺伝子座、ローンはR遺伝子座と仮定しましたが、それらの毛色をつくりだすゲノム上の情報についてはずっとわからないままでした。ただし、ティッキングとローンは毛色出現において同じ過程をたどるので(あとで説明します)、もしかしたら同じ遺伝子座の対立遺伝子なのかもしれないとも考えられていて、実際これまでに、一部の犬種では同じ遺伝子座の対立遺伝子である可能性が示された研究もありました。
新しい研究から何が分かったのかを紹介する前に、そもそも、ティッキング?ローン?どんな柄?と思っている方もいるかもしれませんので、まずはこれらの毛色がどんなものかを簡単に紹介しておきたいと思います。
ティッキング、ローン、そしてスポット
ティッキングは「色素のない白毛領域」に小さな有色