日本ベッドドッグトレーナーズ協会(JAPDT)主催第15回カンファレンス 「家族のカタチを考える~身近なドッグトレーナーになるために~」レポート

文:北條美紀

犬界に関わり始めてまだ日の浅い私ですが、なんと先日、日本ペットドッグトレーナーズ協会(JAPDT)が主催する第15回カンファレンスにお招きいただきました。ご縁は、昨年7月。JAPDTの田中利幸理事が犬曰くの心理カウンセリング・セミナー「犬のプロのお悩み『こんな飼い主どう対応したらいい!?』」に参加くださったことが始まりでした。

そこでの事例のご提供、さらには私との即興ロールプレイにも応じてくださった田中理事から、「家庭犬トレーナーは、犬のトレーニングだけでなく、飼い主さん指導も大切になるのだが、人間の専門家から学ぶ機会が少ない」ということでお話をいただいたのです。そうして「ドッグトレーナーのための国内最大級のイベント」である3日間にわたるカンファレンスの初日、11月21日(土)に登壇する運びとなりました。

どんな様子だったか、この場を借りて皆さんにもお伝えさせていただければと思います。そして、今後も犬曰くでの録画講義・ケースを取り上げるセミナーを定期的に行う予定ですので、ご参加いただく際の参考にしてくだされば幸いです。

午前の部:飼い主の心をつかむ~思い切り腕をふるうために~

まずは飼い主を安心させて

トレーナーの方々が、ご自身のスキルを犬に対して最大限に発揮するために、飼い主と最初にすべきことは、安心できる信頼関係「ラポール」を築くこと。そして、同じ問題を協力して解決するための「治療同盟」を組むこと。飼い主を教え導くのではなく、犬の問題に取り組む仲間になるのが一番の早道です。そのために、「自己一致」、「無条件の肯定的関心」、「共感的理解」などの基本的な態度が、トレーナー側に求められます(これらについては以下インタビュー記事で詳しくお話ししていますので、ぜひご一読ください)。「飼い主のXさん」ではなく、「Xさん」という全人的な存在に焦点を合わせ、興味を持つ時間を意識的に作ることも有効な手段になるでしょう。

「犬たちは生まれながらにしてカウンセラーの資質をもっています」~臨床心理士、北條美紀さんインタビュー(1)
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「犬はカウンセラー泣かせな生き物」~臨床心理士、北條美紀さんインタビュー(2)
文と写真:尾形聡子 犬はカウンセラーとしての資質を備えている生き物。そう話すのは、臨床心理士の北條美紀さん(website・Facebook…【続きを読む】

トレーナーの仕事は三者関係以上の複雑さを持っている

人間のカウンセリングは、多くの場合、カウンセラーとクライアントという二者関係です。ところが、トレーナーの方々は、犬と飼い主に同時対応するという三者関係以上の複雑なシステムを扱わなければなりません。そういった関係性について、システム論という観点からお話をしました。直接的な因果関係(AだからB)ではなく、円環的因果関係(AだからBだからCだからA…)を想定すること、その上で、その関係性のどの部分にどのように働きかければ、システムにどんな変化が起きるのかを予測し、観察することなど、ハイダーの認知的均衡(バランス)理論の図を用いて説明しました。

言うは易く行うは難し、ロールプレイングで実践してみよう

ここまでの講演内容を受けて、実際にどんなやり取りが飼い主さんを安心させ、ラポールや同盟関係を築くのに役立つのかを、田中理事にご協力いただき、即興のロールプレイングを実施しました。「飼い主を咬む」というケースを題材に、過干渉になり過ぎている飼い主にどうアプローチするかを、具体的なコミュニケーションを通じて感じていただきました。飼い主の過干渉を変えようとする前に、可愛がっているはずの犬に咬まれる痛みやショック、「犬がリーダーになっている」と友達に批判される悲しさや悔しさなどに共感しながら、こんなふうに一緒に楽しみたいというゴールのイメージを共有する過程などをお見せしました。

午後の部:パネルディスカッション

ドッグトレーナーの仕事は犬を教えることなのか(本当の学習者は誰?)

パネラーは、施設トレーナーとして田中利幸理事、出張トレーナーとして水野和子理事、幼稚園トレーナーとして鳴海治理事、そこに私を加えた4名でした。簡単な自己紹介から始まったのですが、既にこの段階で、パネラーの方々の犬に対する思いや哲学が、話し方や姿勢、雰囲気から立ち上ってくるようでした。その後、それぞれの形態による飼い主との関わりについてのメリット、デメリットが共有され、互いのメリットを活かし合うような連携のイメージが湧く話し合いとなりました。

パネルディスカッションの様子。

犬嫌いから始まり、今では飼い主とトレーナーが共に学び続ける「共育」を大切に考える田中理事。飼い主を「自分の犬の専任トレーナーにする」ことを大事にし、飼い主のありのままを受容することから始められる水野理事。あっという間に信頼を勝ち取って、飼い主をお客様から生徒さんに変えてしまう鳴海理事。それぞれの熱意が交錯するディスカッションとなりました。最後に、「本当の学習者は誰なのか?」という問いには、犬や飼い主はもちろん、「専門家である私たち自身が常に学び続けている学習者なのだ」というそれぞれの思いが語られました。

今回はJAPDT初のwebカンファレンスということで、聴衆の反応を直に感じることができないという難点はありましたが、講演中、理事の方々が大きくうなずいたり、熱心にメモを取ったりと温かくサポートしてくださったお陰で、お伝えしたいことを話し切ることができました。その場にいた人数は少なかったにもかかわらず、熱い思いが渦巻く学びの多いカンファレンスでした。今回、改めて確認したのは、「トレーニングの世界は奥深くて興味が尽きない」こと。トレーナーの方々が、意識、無意識を問わず、それぞれの犬観や飼い主観や哲学を持ち、常に学びながらそれらを洗練させている姿に大いに刺激を受けました。濃密な時間をありがとうございました。

文:北條美紀
臨床心理士・公認心理師。北條みき心理相談室運営。十数万時間のカウンセリングを重ねた今でも、人の心は未だ分からず、知りたいことだらけ。尽きない興味で、日々のカウンセリングに臨んでいる。犬と人との関係を考えるために、犬に関わる人間の心理学的理解が一助にならないかと鋭意思案中。

北條みき心理相談室:www.hojomiki-counseling0601.jp