コロナ自粛の時代を生きる2:増加するDVと動物虐待の関係を考える

文:北條美紀

Photo byGiusi Barbiani

前回は新型コロナウイルスの流行時に必要と考えられるペットの社会支援についてお話をした。今回はこの特異ともいえる環境下で起こりうる動物虐待の増加について、「虐待」という視点から理解を深めていただきたいと思う。

世界各国で新型コロナウイルスの感染が広がる中、日本でも緊急事態宣言が出され、外出自粛が行われている。外出禁止や外出自粛の影響を受け、家庭内暴力(Domestic Violence:DV)が深刻化・増加しているという報告が各国から寄せられている。もれなく日本でもDV相談の強化が進められているところだ。

外出禁止や自粛によって、DV加害者が自宅に長時間いることでDVが深刻化する可能性がもあれば、コロナウイルスによる行動制限がストレスとなり、潜在していた攻撃性がDVという形で新たに顕在化することも考えられる。どちらにしても、自由な外出ができない上、加害者により外部とのアクセスが制限されてしまうため、これまでつながれていた支援先との連絡が途絶えるケースも出てきている。非常に心配である。

海外では、DVではなく(DVは、現在あるいは過去の配偶者やパートナーからの暴力のみを想定している)、児童虐待Child Abuseを含めたDomestic Abuseという用語が多く使われているようだ。ここには、広い意味で動物虐待Animal Abuseも含まれてくるだろう。

DV家庭だからといって必ず動物虐待が存在するわけではない。しかし、DV被害のためにシェルターに逃げてきた女性のうち46.5%が、動物を傷つけると脅されたり、実際に虐待されたりした経験を持っているという報告がある(Flynn,2000)。同様に、動物を傷つけると脅かされた経験のある女性が48.8%、実際に傷つけられた経験のある女性が46.3%という報告もある(Faver & Strand,2003)。また、DV家庭に育った子どものうち61.5%の子どもがDV加害者による動物虐待を目撃していたという報告もある(Ascione,2007)。
参考:Battered Pets and Domestic Violence

虐待を意味するabuseという言葉は、ab(逸脱した)use(使用)からなる。つまり、本来の目的から逸脱した使い方をするということだ。精神医学では、Alcohol Abuseをアルコール乱用と日本語訳している。アルコールは、適量の飲酒でリラックス効果を得たり、緊張を緩めてコミュニケーションを円滑にしたりするために使われる。決して、過剰に摂取して、嫌なことを忘れるために酩酊するためでも、酩酊して暴言を吐き人間関係を壊すためでもない。こういう問題行動が生じているときには、アルコールはabuseされているのだ。Child abuseも同様だ。子どもは慈しみ育てるものであり、決して自身のストレスを発散するために殴ったり蹴ったり、言葉で傷つけるものではない。Animal abuseも然りだ。

少し話は逸れるが、コロナウイルスの影響で自宅待機が増え、動物を飼いたいというニーズが高まっているという話を聞いた。これも、動物を飼う動機が、自宅待機の間の孤独を紛らわすためだったり、暇をつぶすためだったりということであれば、動物の誤った使い方、abuseなのではなかろうか。ペットは人の孤独をいやす万能薬ではないという研究報告がされているにもかかわらず、人はペットに自身の孤独の緩和を求めがちなところがある。そもそも動物を飼うことはゲームを買って楽しむのとは本質的に全く違うのだ。

子犬をみると癒される〜。だが犬は本当に孤独を癒してくれるのだろうか? Photo by Christina Hart

さて、暴力を振るう理由は様々あるが、ひとつは、「ストレスを発散するため」だ。ストレス発散の方法は人それぞれだが、中でも「気晴らし型」の選択肢に暴力が入る人がいる。気晴らし型を選ぶ人は、運動をしたり、カラオケで熱唱したり、映画を観て号泣したりと、身体を使って発散することを好む。ここに暴力が入り込むと、配偶者や子ども、動物がストレス発散の道具としてabuseされることになる。

それとは別に、DVや虐待、ハラスメントには「支配の病」という側面がある。他者をコントロールすることで快感を得る人たちがいる。こういう加害者は、ストレスの有無に関わらず、身体的・精神的・経済的な様々な形態で攻撃を加え、他者を意のままにコントロールしようとする。DVに多いのは、子どもや動物を傷つけるぞという配偶者への脅しである。配偶者やパートナーを従わせるために、子どもや動物を傷つけると脅し、脅しが功を奏さなければ実際に傷つける。配偶者たちにとっては、自分が傷つくより大切な他者が傷つくほうがダメージは大きいため、逃げるという選択ができなくなるのである。

最初に述べたように、コロナウイルスによる外出禁止・自粛のため、物理的に外部との連絡が取りにくくなる中、DV加害者が長時間自宅に滞在している環境下では、これまでつながれていた支援先とのアクセスも遮断されてしまう可能性がある。ここでいう支援先とは、メンタルヘルスの専門家だけでなく、親類や友達などの人的資源、あるいは、動物を介した仲間や獣医師、ドッグトレーナーやトリマーも含まれるだろう。人の専門家も動物の専門家も、平時以上に家庭内の状況に配慮・注意していく必要がある。そして、リスクについての情報が共有されるような体制が、人と動物の垣根を越えて構築されることが望まれる。

次回、この連載の最終回は私が経験したクライアントさんのケースを紹介しながら、どのような形で動物虐待がその人に影響を及ぼすのかを紹介してみたい。

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文:北條美紀
臨床心理士・公認心理師。北條みき心理相談室運営。十数万時間のカウンセリングを重ねた今でも、人の心は未だ分からず、知りたいことだらけ。尽きない興味で、日々のカウンセリングに臨んでいる。犬と人との関係を考えるために、犬に関わる人間の心理学的理解が一助にならないかと鋭意思案中。

北條みき心理相談室:www.hojomiki-counseling0601.jp