足裏感覚の楽しみ

文と写真:尾形聡子

この夏も、短いながらも酷く暑かった。夏の間、朝は少しでも早い時間に、夜はできるだけ涼しくなってから散歩にでるようにしていたが、それでもやはり15歳の老犬たちの体には堪える、厳しい日々だった。

梅雨の時期から徐々に体調・体力ともに低下し始めたタロウは暑さのせいもあり、「さっさと歩くことなんてもう無理です」といわんばかりに、トボトボとしか歩かなくなってしまった。ハナもそんなタロウに合わせるかのように、曲がり角に来ては立ち止まり、「もうこれ以上遠くに行きたくありません」とアピールしてくることが増えた。そんな状況だったため、8月のひと月は土のある場所へ行けるほど遠くまで散歩することがほとんどできなかった。

しかし数回、ちょっとだけ涼しい朝に土や草が生えている場所まで行くことができた。そこへたどり着くまでは亀のような歩みで、ハナにはこれ以上遠くに行きたくないと何度も抵抗された。どうにかなだめながら、いざ土のある場所に到着してみると。とたんに2頭は見違えるように生き生きと歩き始めた。

スピードは相変わらず遅いがそれは歳だから仕方ない。2頭の背中にはアスファルトの道を歩くときには見られないウキウキ感が漂っていた。そんな様子を見て、ああ、やっぱり土や草が好きなんだなと実感した。もちろん土や草のにおいが嬉しいというのもあるだろうが、それだけではないと思う。足の裏の感覚だ。思い出してほしい、トイレトレーニングをするとき足裏感覚もしっかり使って「ここがトイレの場所ね」と犬は覚えなかっただろうか。

実はこれまでの15年間、散歩コースで気をつけてきたことがある。アスファルトの上だけを歩く単調な散歩にならないようにすることだ。裏路地が多い場所柄、道選びには困らない。けれどそこに必ずアスファルト以外の足裏感覚が得られるような場所を通ることを意識してきた。

土の上、草の上、砂利の上、石畳の上。冷たかったり、滑りやすかったり、歩きにくかったり。平たんな見通しのいい道ばかりでなく、むしろ足元が見えないような深い草むらなんかも通ってみたり。その中には犬たちがあまり好きではない場所もあっただろうと思う。しかしそういったものも含めて足の裏から得られる情報は、犬が歩いたり走ったりするときに必ずや活かされているはずだ。そして、いろいろな地面を歩けばさまざまな刺激を脳が受け止め、足裏感覚のマンネリ化を防ぐことができる。もしかしたらアスファルトの上しか歩きたがらない犬もいるかもしれないが、それは本能というより学習によるものだと思う。

毎日の散歩にちょっとした刺激を増やすためにも、犬の足裏感覚を考えての散歩をおススメしてみたい。気をつけて探してみれば、都会であってもいろんなタイプの地面は存在しているものだから。

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