ダックスの椎間板ヘルニア~不妊化手術と病気発症リスクとの関係

文:尾形聡子

[photo by sovraskin]

強い痛みを伴う病気、椎間板ヘルニア。ヘルニアの起こる場所によっては麻痺症状があらわれることもあり、運動失調をおこしたり排尿のコントロールができなくなることもあります。また、手術を受けても回復することができず、安楽死の選択をせざるを得ない場合もあります。椎間板ヘルニアは犬だけでなく飼い主にとっても、生活の質(QOL)に大きく影響を及ぼす可能性の高い病気のひとつといえるでしょう。

椎間板ヘルニアは加齢が原因となることもあるため、どんな犬でも発症する可能性がありますが、ダックスフンドやウェルシュ・コーギーなど胴長短足の犬種がかかりやすい病気として知られています。遺伝的な背景としては、細胞の増殖や分化に関与する線維芽細胞成長因子のひとつ、FGF4(Fibroblast growth factors)という遺伝子のレトロ遺伝子が原因となり、短足となる軟骨異形成(Chondrodystrophy)を引き起こすばかりでなく、椎間板疾患発症にも強い関連性があることが報告されています(詳しくは『短足と椎間板疾患に共通する遺伝的背景が明らかに』を参照ください)。

とはいえ発症原因は100%遺伝によるわけでもありません。現在は遺伝的要因と環境要因が影響する多因子性の病気と考えられています。運動や食餌などの環境要因の違いがどの程度発症リスクを軽減させるのかについてはまだほとんど分かっていませんが、遺伝以外の要因として、たとえば太り過ぎていることは少なからず腰に負担をかけることになり、物理的にも発症リスクを高めると考えられています。

では、環境要因のひとつである犬の不妊化状態は発症のリスク要因となるものなのでしょうか。とりわけ椎間板ヘルニアの発症が多い犬種であるダックスにおいて、不妊去勢手術の状態と病気の発症の関連性、さらには手術した年齢と発症の関連性についてイギリスで調査された結果が『Canine Genetics and Epidemiology』に発表されています。

1歳にならないうちの手術は椎間板ヘルニア発症リスクを有意に高める

研究者らは、英国の王立獣医科大学とThe Dachshund Breed Councilが行った「Dachslife 2015」という飼い主調査により得られた1,964頭のダックス情報の中から、3歳以上10歳未満の1,073頭を対象に解析を行いました。

その結果、手術をしたメスはしていないメスと比べると椎間板ヘルニアになるリスクが有意に高い結果が示されました。一方オスの場合は、手術をしたオスの方がしていないオスよりも発症率こそ高かったものの、その差は統計的に有意なものではなかったそうです。

さらに、早期手術(1歳になる前)もしくは後期手術(1歳を過ぎてから)による比較によれば、オスメス両方において、早期手術は明らかに発症リスクを増大させていることが示されました。早期手術をしたオスのリスク比は1.54、メスは2.12となっていました。

これらの結果を受け、研究者らは不妊化する手術を受けるか否かはほかの健康要因なども考え個別に対応する必要があるが、ダックスの椎間板ヘルニアの罹患率の高さを考えると手術を受けるかどうか、また手術をするならばいつにするかを決定する際に重要なポイントとなるといっています。

[photo by Blues La Nanasimc]

手術を受けるかどうかにくわえ、受けるならばいつにするかも重要

2012年に発表されたスウェーデンの報告ではダックスの15~20%が、2016年のイギリスの報告では19~24%が生涯に一度は椎間板ヘルニアの症状をあらわしていたことが示されています。この割合は日本とそれほど大きくは変わらないのではないかと思います。

犬種によっても病気によっても、不妊化の手術を受けることでプラスに働く部分もあればマイナスに働く部分もそれぞれ少しずつ違ってくるでしょう。しかし、早期手術を受けたジャーマン・シェパードでは関節疾患、とりわけ前十字靭帯断裂の発症リスクがかなり高まるとの報告もあるように、ダックスに限らず、手術をする、しないという選択肢にくわえ、手術をするならばいつするか、という点も犬たちの健康を考えていく上でこれからは十分に考慮していく必要があるのではないかと改めて感じています。

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【参考文献】

Neuter status as a risk factor for canine intervertebral disc herniation (IVDH) in dachshunds: a retrospective cohort study. Canine Genet Epidemiol. 2018 Nov 15;5:11.