レトリーバーのための狩猟技能テストの種類について

文と動画&写真:藤田りか子

猟技テストに備えて練習をするアシカ。およそ3kgほどもある若いハイイロガンを回収する。

レトリーバーのスポーツについてはイギリスのフィールド・トライアルが日本ではもっとも有名なものだと思う。そしてヨーロッパの多くの国ではイギリスのトライアル方式を採用している。ただし、各国にはその国の狩猟事情に合わせたレトリーバーのための技能テストもある。そう、イギリスのトライアルだけがレトリーバー競技の全てではない(とはいってももっとも難しいトライアルではあるのだが!)。

スウェーデンの例を紹介しよう。ケネルクラブの傘下にある「スウェーデン・スパニエル&レトリーバー・クラブ」が行うレトリーバーのテストは3種類に分かれている。一つは実猟シーンで行うAテスト。イギリスのフィールド・トライアルにほぼ相当するものだ。もう一つはBテストとも呼ばれるコールド・ゲーム(すでに死んでいる鳥やウサギなど)で行う狩猟技能資質テスト。三つ目がCテスト、キャンバス地のダミーを使うワーキング・テストである。

ワーキング・テストは基本的に非公式の競技会であり成績は血統書には登録されない。だが、狩猟技能資質テストのほうはケネルクラブのデータに成績が残る。資質テストはノービス(=ビギナー)、オープン、エリートの3レベルに分かれており、エリート・クラスで審査員により最高の評価が下されるとその犬は「フィールド・チャンピオン」のタイトルを得ることもできるのだ(ただし最高評価を3回とること、かつ実猟テストで合格すること)。成績はワーキング・テストのように点数制ではなく学校の成績表のような4段階評価。「この犬にはどのような資質があるのか?」を見極めるのがテストの目的なので勝つとか負けるという「競い」もないというわけだ。なぜこんなテストが存在するのかというと、ひとえに「ブリーディング」のため、良い資質の犬を見極めるため。その資質とはなにかについては後述しよう。

スウェーデンケネルクラブのドッグデータというサイトではケネルクラブに血統登録されている犬の個体データを閲覧することができる。これはアシカのデータ。ノーズワークおよび狩猟技能資質テストの結果も登録され、このように公表される。

もう2ヶ月前のことになるが8月にアシカとノービス・クラスに参加した。ノービス・クラスには、陸と水場でのシングル・マーキングの課目がある。シングル・マーキングというのは獲物が落ちたところを覚えておく猟技。シングルというのは一つという意味、つまり獲物が落ちるのは一回だけ。ノービスではシングルのみだが、オープン・クラスになるとダブル・マーキングになる。発砲音とともに獲物は2箇所に投げられ(発砲はもちろん2回)、犬はその落ちた場所を両方ともしっかりマークして覚えておかなければならない。さらにマーキングの他にサーチという課目もある。これは50mx50mぐらいの鬱蒼とした林や薮のエリアに何羽もの鳥やうさぎを隠し置いて犬に探させる(下動画参照)。いわばフィールド版の「ノーズワーク」のようなものだ。純粋なサーチであり、犬への遠隔操作は一切許可されない。ハンドラーは所定のところにただ立って、犬が探してこちらに持ってきれくれるのを待つだけ。

アシカと初めて参加したスウェーデンのBテスト(コールド・ゲームによるレトリーバーの狩猟技能資質テスト)のノービス・クラス。3課目のうちの一つ、サーチ。4〜6羽のカモやウサギがフィールドに散らばっている。これを全て回収する。遠隔操作は一切許容されず。アシカ、せっせと回収、6羽のうち5羽を見つけてきた。しかし審査員はこれで合格にしてくれた。全部獲物を拾うということが最も大事なことではなく、犬がどれだけ一生懸命探しているか、探索範囲の広さ、そのスピードや耐久性についても評価が下される。

さて私とアシカのテストだが、マーキングの課目から始まった(下動画参照)。彼女を横につけると、しばらくしてから発砲音が響きカモメ(スウェーデンではカモメも狩猟鳥の一つに数えられるのだ!)が投げられた。アシカが投げられた方向にじっと目をこらしているのを見計らって、回収に送り出した。彼女は矢のよう獲物に向かって走りそしてあっという間に戻ってきた。そして獲物はもちろん手に渡してくれた。横で審査員はにっこりと笑っているではないか、シメシメ…。たったこれだけのパフォーマンスだが、審査員はここにレトリーバーとして持つべき素質のあるなしをしっかりと見定めているのだ。

それはまず、マーキング能力。「あれ〜、どこだったかな、ここかな、あそこかな?」と走り回ってはいけない。犬は落ちたところをしっかり覚えピンポイントで獲物まで到達できるのが好ましい。そして、スピード。ノラクラではなく、素早く回収に走り素早く戻って来たか?ソフトマウス(歯を立てずに口やわらかく獲物を運ぶという意味)能力も大事だ。なんといっても獲物は人の食用だから(という想定)犬の歯があたってはならない。

水場でのレトリーブも同様だ。岸でウロウロせずにまっすぐに水に入ったか、力強い泳ぎだったか、獲物をくわえ岸についたら濡れた体を振らずに迅速に水鳥をハンドラーの手に渡したか?回収のときのパフォーマンスのみならず、次のテストエリアに行く時の犬とハンドラーの協調状態も審査されている。きちんと横について歩いているか。こんなにも多くの事項を審査員は見る。いや、もっと審査項目があるのだがここには書ききれない。

初めての狩猟技能資質テストにもかかわらず、アシカは「グレード1」という4段階のうちもっとも高い評価をもらった。やはり練習の賜物でもあるし彼女の素質もあるだろう。一度グレード1を取れば、つぎはオープン・クラスでテストを受けることができる。そしてこのクラスから遠隔操作の課目も入る。

アシカのマーキング。パフォーマンスは一見単純そうに見えるが、この中にたくさんの審査項目が含まれている。銃声が聞こえても落ち着いて獲物の落ちるところを見ていることができたか、躊躇せず水の中にダイレクトに入っていったか、スピードはあるか、水から出て岸にあがってきても体を振らずにまずまっすぐに獲物をハンドラーに届けたか、などなど!この基礎ができあがっていなければ、将来高度なフィールド・トライアルにはまず参加できない。

個人的にスウェーデンのこの狩猟技能資質テストはすごくいいシステムだと思う。イギリスのフィールド・トライアルのノービス・クラスはこれ(資質テストのノービス・クラス)に比べると敷居がうんと高い。なんといってもいきなり実猟だ。スウェーデンですら全てのレトリーバー飼い主が実猟でトレーニングできる機会やアクセスをもっているわけではない。が、資質テストの科目なら誰もがトレーニングできる。ノービスからゆっくりと段階を踏んでエリート・クラスの難度あるテストに挑戦できる。そして大事なのは一番最初のレベルからすでにレトリーバーとしての素質を十分評価してもらえる点だ。

前述したように「犬種をつくる」ということを考えると「資質テスト」というのはいわばブリーダーのためのツールにもなり得る。だからこそ犬種を保存するのが目的であるケネルクラブの傘下でそのテストが管理されている。レトリーバーというのは見かけだけではない。その名が示す通り回収という職業を持つ作業犬なのだ。ならばそのブリーディングというのは、レトリーバーらしい資質を持った犬を選択繁殖することでもある。そしてこれは付け足しだが、もし全てのレトリーバーがこの資質テストの成績によって選択繁殖を受けていたら、この世は家庭犬として飼いやすいレトリーバーだらけになっていたのではないかと思う。選択基準としてはノービス・クラスを合格していているだけでもほぼ十分だ。このことについてはアシカの気質について述べたこちらのブログを参照されたい。

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