無害な腫瘍 リポーマ

文と写真:アルシャー京子

ピーナッツ大のリポーマ。

うちの犬が8歳の頃、胸の一番深い部分に小豆大のリポーマ(脂肪腫)を発見し、とうとう高齢の域に片足を突っこんだことを感じた。

あれから4年経った今、薄い皮膚の下でプニプニしていたリポーマは、小豆大からピーナッツ大へと育った。リポーマは伏せをしたときにちょうど床に触れるため、床と擦れる皮膚の部分のうぶ毛が少し禿げているけれど、それ以外特に悪さをする様子はない。

リポーマは皮下にできる良性の腫瘍で、犬の場合、胸や脇腹など目に付くところに好発することから短毛犬種ではすぐに見つかるほか、長毛犬種でも普段犬を撫でたり、手入れをしているときに飼い主が気がつくことが多い。最初は小さくても時が経つにつれ大きくなり、場合によっては大人の握り拳ほどまで育つ腫瘍だけど、良性だからよほど犬の行動の邪魔になったり擦れて皮膚が傷つかない限り、獣医に相手にされない類いのもので、強いて言えば見かけの問題である。

なぜリポーマができるのか、原因はおそらく遺伝によるものであろうということが推測されているが、まだ解明はされていない。外見的にリポーマに似た比較的小粒の皮下腫瘍であるアテローマ(粉瘤腫)は常染色体性の優性遺伝だというし、リポーマも遺伝の可能性はあるのだろう。また肥満気味なメス犬にもリポーマは多い。原因が分からないから発症の予防策はなく、もし遺伝性だとしたらそれこそ発症は仕方ないと諦めるしかない。

皮下にできたリポーマは他の組織との境界線がはっきりと分かる軟らかいもので、触って左右に動かしても痛みなどはない。しかし、リポーマには筋肉や筋など周辺組織と融合するようなものもある。このようなリポーマは組織とくっついた状態だから、触ると犬は不快感や傷みを感じるけれど、筋肉にくっついていてもまあまあ境界線とやはりプニプニした触感が分かり、良性である。前者が胸骨周辺や腹部、四肢の上部(肩や太腿)にできやすい一方、後者は脇の下周辺や太腿にできやすい。

リポーマだとわかっていれば心配はいらないが、皮下にできたものが本当にリポーマであるか、あるいはもしかしたら希にある悪性の脂肪肉腫やその他の腫瘍なのか、単に外見や触診からだけでは判断しきれない。希とはいえ、もしも悪性腫瘍ならば肺や肝臓などに転移が起きるので早急な対応が必要であるし、不審に思ったらまずは診断。

皮下にできたプニプニが何者であるか、注射器で中身を吸い取り、顕微鏡下で細胞を診断することができる。注射針を刺して行う検査なので麻酔もいらず、プニプニの正体をとりあえず高確率で知ることができる簡単な方法である。

発症の予防法がなく、できてしまったリポーマを取り除くには通常外科的切除が行われるが、うちの犬のように心疾患を持つ高齢犬では、切除手術のための麻酔のリスクはできるだけ避けたいものだ。しかも切除をしてもまた再発する可能性がある。

脇腹に大きなリポーマを持つ茶ラブ。大きなコブだが、見た目によらず痛みなどはなく運動にも影響はないが、ただ床に擦れて毛が禿げてしまっている。

うちの犬のプニプニは発見後予防接種のついでに検査をし、リポーマであることがわかって放っておかれたわけだが、現状のようにピーナッツ大ならまだしも、例え良性でも今後大きくならないようなんとか手を尽くしたいところだ。しかし、マッサージしたりサプリを与えたりというなにかよい方法は、リポーマには残念ながらないらしく、良性であることさえ分かれば、あとは運を天に任せるしかないというのが少々じれったい。

近頃、さらに今度はみぞおち付近の筋肉の下に、平たくて長いプニプニが2つほど育っているのが発見された。今のところまだ薄っぺらくてよくよく触ってみないと分からない程度だが、寄る年波には勝てないなぁと感じつつ、とりあえず検査の日まで要観察である。

じれったくて時々指でつついて眺めてみる私と、リポーマなんてどうでもよさげな本犬。本犬が気にしないのであれば、それが良い兆しでもある。

(本記事はdog actuallyにて2014年1月14日に初出したものをそのまま公開しています)