犬の認知力低下を緩やかにするには、トレーニングが効果的

文:尾形聡子

[photo by Chris Phutully]

加齢に伴い細胞が老化していくと、臓器や脳、筋骨などに変化が起こります。いわゆる老化は寿命ある生物にとって自然な現象です。自然現象としての老化は避けることのできないもので、病気に起因するものとは異なりある意味正常な状態ともいえますが、誰しも老化を少しでも遅らせたいと思うものです。

加齢にともなう体の変化のひとつに感覚機能の低下があげられます。そして、感覚器から得られる情報をもとに何かを判断、理解、学習、思考したりするなどの認知機能は、もれなく感覚機能の低下により引き起こされていきます。犬も寿命が延び、それに伴い加齢による体の衰えや認知機能の低下をあらわす犬も増加しています。しかし犬は体の大きさによって寿命がかなり異なるため、何歳ぐらいでどの程度ならば自然現象のうちといったように、老化の年齢指標を把握しにくい生物ともいえます。

そこで、ハンガリーのエトベシュ・ローランド大学の研究者らは犬の体の大きさによる寿命の違いを予想寿命から相対的に算出し、5段階(Junior、Adult、Mature、Senior、Geriatric)に分け、環境要因や感覚機能と認知機能の低下との関連性について調査を行い、その結果を『Behavioural Processes』に発表しました。

予想寿命の半分を過ぎたころから認知機能は低下し始めている

研究者らは1歳以上の犬の飼い主を対象に大規模オンラインアンケートを実施し、得られた1,343の回答を解析しました。アンケート内容は、年齢、犬種、性別、体重、体高、聴覚・視覚・嗅覚の状態、何らかの公式なトレーニング認定を受けたことがある/何らかの公式な競技会に参加したことがある、日中の主な過ごし場所といった基本情報や環境情報にくわえ、“あなたが家に帰ったときに犬は喜んで迎えることが減っているか”、“わけもなく吠えることが増えているか”、“日中寝ている時間が増えているか”など行動に関する7項目31の質問で構成されていました。

また5段階の相対年齢は、

Junior:予想寿命の25%未満の段階
Adult:予想寿命の25~50%未満の段階
Mature:50~75%未満の段階
Senior:予想寿命の75~100%の段階
Geriatric:予想寿命を超えている段階

として区分けされました。

その結果、認知機能の低下はMature(予想される寿命の50~75%の段階。たとえばグレート・デーンでは4~6歳、ビーグルでは7~10歳くらい)の犬ですでに見られ始めることが示され、その後年齢が高まるにつれ機能低下がみられる割合は右肩上がりとなりました。また、聴覚・視覚・嗅覚の知覚機能は明らかに加齢とともに低下していく傾向にあり、認知機能低下に関係する行動の増加との関連性も見られました。

認知力低下と性別などの基本情報には関連性が見られなかったものの、一点、トレーニングに関しては明らかに有意差がでていることがわかりました。認知機能の低下がみられ始めるMatureまではトレーニングの経験の有無にかかわらず同じような状態なのですが、その先、Mature からSeniorの段階になるときにはトレーニング経験の有無により認知機能の低下の進み方に差ができ、Geriatricになるとさらに進み方の差がひらいてくることが示されたのです。

今回の調査ではトレーニング時期や期間、程度などについての細かな質問はありませんでしたが、公式な競技会に出場するためにしっかりとしたトレーニングを受けたことのある犬は、認知機能低下が緩やかであるという結果は注目に値するものと研究者らはいっています。

さらにこれについて研究者らは、人での認知症のリスク要因のうち、意図すれば予防につなぐことのできる9つの要因のうちのひとつ、“11~12歳までに教育を終了する”と通ずるものがあるのではないかとも考察しています。ちなみにこのリスク要因を持つ人は、持たない人に比べて1.6倍認知症になりやすいといわれています。

人の場合、子どものころの勉強が認知機能の発達に重要なのですが、犬の場合ではトレーニングが勉強と同等な役割を果たすものであると考えられるということです。若犬時代にしっかりとしたトレーニングを受けると、認知機能を向上させるばかりか、加齢に伴う認知機能の低下を緩やかにする可能性が示唆された結果といえるでしょう。

退屈はいいことなし!

犬の寿命が延びている昨今、ただ長生きするのではなく健康寿命も長くなることを願う飼い主の方も多いはずです。今回の研究ではしっかりトレーニングをした経験があるかどうかという観点での調査解析でしたが、個人的には公式の競技会に出るための特別なトレーニングでなくても、それに相当する“脳トレ”を伴ったトレーニングや遊びができるのではないかと思います。裏を返せば、“退屈な日常”こそ天敵ともいえるのではないでしょうか。

寄る年波には勝てないとはいえ、長年暮らしてきた愛犬の知覚機能低下を目の当たりにするのは寂しく感じるものです。しかし歳を重ねていく愛犬の生活の質を維持したり高めたりするためにも、愛犬の知覚状態の変化をできるだけ把握できるよう気を付けておくことが大切だと思います。

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【参考文献】
Owner reported sensory impairments affect behavioural signs associated with cognitive decline in dogs. Behavioural Processes. 2018