思春期の反抗期がない犬

文と写真:藤田りか子

「思春期の反抗期」はどんな犬にもあると思いきや、それをほとんど持たずに青春期を迎えている犬もいるものだ。アシカがそのタイプであると最近わかり始めた。いや「反抗期がない」と断定するには、まだ早すぎるのかもしれない。が、かりにも彼女は14ヶ月齢。そろそろ生意気なことをしでかしたり、今まで教えたルールを無視することが一つや二つはあってもいいはずだ。

この間散歩をしていたとき。森を抜けたら、シカが向こうの原っぱを全速力で逃げ去って行くのが見えた。アシカはちょうどそのとき私から10mぐらい先にいたのだが、「おいで!」という私の合図にすぐ応え、嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねながらこちらに戻って来た。なんともまぁ朗らかな子なんだろう。彼女は前方でシカをしっかり見ていたはず、それもノーリード状態で。その瞬間の私の焦りは想像に難くないだろう。ラッコがシカを追いかける楽しみを覚えたのは(これを「呼び戻しを聞かなくなったのは」と読んでもよし)、そういえばちょうど今のアシカぐらいの年齢だった。同じ犬とはいえ、同じ飼い主に育てられたとはいえ、こうも気質は違うものか、とつくづく…。

春になると、シカが牧草地に群れで現れることが多くなる。我々の気配を感じて一斉に走り出した!

いわゆる家庭犬タイプのラブラドールに比べて、フィールド系ラブラドールには、何かを「追いかける」という欲があまりないという結果がスウェーデンにおけるC-BARQ調査によって示されている(アシカはフィールド系のラブラドールだ)。不思議ではないか。追いかける、というのは狩猟欲の一つでもあり、それが猟をする目的で作られているフィールド系の犬に少ない、というのは矛盾しているようにも聞こえる。が、ガンドッグとして働く際は、ハンドラーから指示されるまでじっと待つことが求められている。たとえ目の前にカモやキジが飛んだり走っていったりしても、だ。

追いかけたがらないという傾向は、フィールド系をブリーディングする人が狩猟の際にあっては困る行動を淘汰してしまった結果なのかもしれない。だとすればこの特性は遺伝によるものとなるが、前述の調査をした研究者は後天的である可能性も捨ててはいない。

「〈追いかける欲〉がフィールド系のラブラドールにより少ないというのは、トレーニングによるところかもしれない。家庭犬タイプのラブラドール・レトリーバーの50%が定期的なトレー二ングを受けているのに比べ、フィールド系では80%にも上る」

と述べている。

フィールド系のラブラドールを飼う人のトレーニングへの意気込みは確かにすごい。ほとんどがトライアルなど競技会にでるつもりでいる。しかし、私の経験からすると、「追いかけない」という性質はやはり遺伝の方が大きいのではないかと思う。以前飼っていたカーリーコーテッド・レトリーバーのトドで私はシカに出会った際の呼び戻しトレーニングに失敗している。だからラッコ(彼も同じ犬種だ)を得た時は幼い頃から相当な努力を払ってトレーニングに精を出した。しかしなんてことはない。ラッコもトドとほぼ同じ結果に(とほほ)。私の友人はフィールド系とショー系(家庭犬タイプ)の両方のラブラドール・レトリーバー飼っているが、彼女のところでも違いは明らか。ショー系の子は「こっち来なさい!」と言われても我を通して無視することがちょいちょいある。その点、フィールド系の子はすぐにアイコンタクトを取ってそばにやってくる。同じ犬種内なのに気質も姿形も異なる二つのタイプ。唯一両者の共通点と言えば、旺盛な食い意地と明るいところだろうか。

私にとって「反抗期」に入った際の警鐘は「呼び戻し」の時に見せる若犬の行動だ。これは同時に犬が飼い主とコンタクトを密にしているか否かのバロメーターでもある。とりあえずこのままアシカに大人犬になってもらいたいものですね。

【参考文献】

Almberg. J. (2015). The Effects of recent selection on behaviour in two breed lines of Labrador retriever. Linköpings universitet.

【関連記事】

コロコロとスリム、二つのタイプのラブラドール・レトリーバー
文と写真:藤田りか子 どちらがラブラドール・レトリーバーでしょう?答え:両方とも! 先日、アシカのブリーダーの一人であるKさんのところ...