愛犬はいつでもどこでもあなたが一番?

文:尾形聡子

[photo by Tambako The Jaguar]

日々の暮らしを通じて人と犬の間には独自の絆がつくられていきます。とりわけ、犬にとって飼い主が特別な存在であるのは言うまでもないことです。とはいえ時に、自分には目もくれずに愛犬がほかの人に強く興味を示すことがあります。そんな姿を見て“私のこと本当に好きなのかしら・・・”と、なんとなく自信を失ってしまったり、少し寂しい思いをしてしまったことのある方もいることでしょう。そもそも犬はどんな状況でも常に飼い主との接触を最優先にしたいと思っているものなのでしょうか?

アメリカの研究者らが『Journal of the Experimental Analysis of Behavior』に発表した研究によりますと、犬が飼い主との交流を求める度合いは、その時の状況に左右されそうだということです。

実験には家庭犬52頭が参加。犬は、飼い主と見知らぬ人の二人、または見知らぬ人二人と10分間同じ空間で過ごします。犬は飼い主と見知らぬ人のいずれにも自由に近づくことができ、参加者は同じように犬を撫でるという接し方をします。犬はどちらの人と触れ合うことを好むのか、そして、場所がその選択に影響を及ぼすのかどうかを調べるために、それぞれの犬の自宅(なじみのある場所)もしくは、フロリダ大学の研究室の小部屋(なじみのない場所)で実験が行われました。

犬は13頭ずつの4つのグループに分けられ、①飼い主と見知らぬ人:自宅、②飼い主と見知らぬ人:研究室、③二人の見知らぬ人:自宅、④二人の見知らぬ人:研究室、のいずれかに参加しました。

また、シェルター犬も13頭参加して、なじみのない場所で見知らぬ人二人と過ごす様子が観察されました。

場所が犬の選択を左右する

映像を解析した結果、なじみのない場所において、家庭犬は飼い主との接触に約8割の時間を使っていました。一方で、なじみのある場所では、およそ3割の時間しか飼い主との交流に充てていなかったそうです。

また、二人の見知らぬ人に対しての実験では、シェルター犬も家庭犬も、片方の見知らぬ人と特異的に接触を持つ傾向が示されたそうです。このことは、家庭犬がなじみのない環境で飼い主との接触をより好むのと似ているのと同時に、犬は見知らぬ人であっても、素早く好ましく思う方の人を選択できることを示していると研究者らはいっています。そして、犬にとってストレスがかかる状況において、飼い主の存在はより重要なものになると結論しています。

犬は人につき、猫は家につくというけれど

以前『犬の飼い主に寄せる信頼と、子どもの親に寄せる信頼の類似性』でお伝えしましたが、犬が自信を持って行動をとるには飼い主の存在が重要であり、犬は飼い主を“安全なよりどころ”としていることはこれまでの研究により示されてきています。今回の実験もそれを示す結果といえるでしょう。なぜならば、なじみのない場所(ストレスがかかる状況)にいるときに飼い主と交流をはかることが、犬にとって安心を得る手段となっていると考えられるからです。

もちろん新奇好奇心の強さやストレス耐性には個体差がありますので、中には何事にも動じないという犬もいるかもしれません。が、場所の違いが行動の違いにもあらわれてくることは、きっと多くの方がこれまでに経験されてきているのではないでしょうか。たとえ犬が接触を求めてこなくとも飼い主が”安全なよりどころ”にさえなっていれば、それが犬の飼い主に対する無関心であるとは限らない、ということです。

そして今回の結果を見て、昨年入院したときのことをふと思い出しました。何の前触れもなく9日間も家を空けたにもかかわらず、2頭の犬たちは特に動揺しているような様子も見せずにいたと聞いたことを。犬は特定の誰かと一緒ではなくても、それほど変わらずに日々の暮らしを続けられるのであれば、案外苦労せずに新しい状況に順応する力があるのではないかと感じました。

しかし平穏に過ごせたのは順応力だけではなく、生活の場が変わらないままでいられたことがとても大きな要因だったのだとも思うのです。どこへ出かけてもなるべくストレスを感じないで過ごせるようにトレーニングを積むことはとても大切ですが、人間も自宅が一番落ち着ける場所だと感じるように、やはり犬も自宅が一番なのだと思います。

“犬は人につく”とはいいますが、家庭犬にとっては、家が最も落ち着いて過ごせる場所であるのが大事なことのひとつなのだと改めて思った次第です。

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【参考サイト】

Scientific American