ウチの子は大丈夫、と言う前に

文と写真:尾形聡子

散歩をしていているとよく、”ウチの子は大丈夫”という言葉を聞く。

最近ようやく慣れてはきたものの、当初はかなり戸惑ったものだ。出会う場所や状況によって、その言葉はいろんな解釈ができる。たとえば散歩中、すれ違うのもギリギリの細い裏路地で相手の犬が伏せて待ってしまっている場合などは困ることが多い。そんなとき、

“ウチの子は大丈夫(挨拶したがっているのだけれど・・・)”

と言われることがある。タロハナがその犬に興味がないばかりか、伏せている犬にあえて近づきたがらず、むしろ嫌がっている様子を見せることもある。すると、

“ウチの子は大丈夫(なのに。どんな犬にもすごく友好的な子だから。でも、そちらの犬がねえ・・・残念ねえ・・・)”

というような心の声が聞こえてきそうなこともしばしばだ。

犬同士がトラブルになるのを避けるためにさっと踵を返して別の方向に進んでいくこともできるが、人同士の付き合い的な意味で考えれば相手にいい印象を与えないかもしれない。大丈夫と言われているのに避けて通るのも気が引けるところがある。いずれにせよ、二つ目の”ウチの子” のようなニュアンスに、私は随分とショックを受けてきたものだ。言い方は悪いが、ある意味、自分(と犬)を正当化し、相手(とその犬)を先手で批判しているとも受けとれてしまうからだ。犬を含めた人同士のコミュニケーションとして、“ウチの子は大丈夫”は考えさせられる言葉であると思い続けてきた。

“ウチの子は大丈夫”は、散歩中だけでなくフリーで遊べるドッグランの中でも多く交わされている言葉だ。ドッグランでは『仲良くできる、仲良くしたい=大丈夫』なだけでなく、『ケガを負わせない=大丈夫』という意味合いも含まれてくるだろう。大丈夫という言葉は妙に使い勝手がいいところも問題かもしれない。

さて、かりに、以下のような状況にある犬ははたして“大丈夫”なのだろうか?

  • 興奮のあまり上半身が立ってしまって、ゼーゼーしながらリードを引いて挨拶しに近づいてくる犬
  • 短時間ながらも挨拶が終了し、立ち去ろうと体の向きを変えた犬にいつまでも付きまとおうとする犬
  • 初対面の犬に忍び足で近づこうとする犬(巻き毛犬のタロハナ特有の経験かもしれません)
  • よその犬のボール遊びに割り込んでプレッシャーをかけ、ボールを持ち去っていってしまう犬
  • ボールを追いかける犬を集団で追いかけて取り囲む犬たち

犬が本当はどうしたいと思っているか、飼い主の思惑とはちがう場合もある。そして犬同士仲良くすることを求めすぎるのは、人の理想を犬に押し付けているところがあるかもしれないと思う。犬だって感情のある生き物だ。好き嫌いがあるのは当然のこと。とくに、犬の社会では人間社会にあるような偽善は通用しないだろうから、なおさらではないだろうか。藤田さんの『仲良くしていたのに!(どうして喧嘩するの?)』にも書かれていたことであるが、犬には適度な距離を欲しがっている場合があること、どんな犬とも仲良くなりたい犬ばかりではないことをより多くの人に知ってもらいたいと思う。

年齢もあるだろう。高齢のタロハナに元気盛りの大型の子犬はちょっと厳しい。タロハナは明らかに距離を取りたがっているが、相手の子犬(と飼い主さん)が気づかないことも。中には病気の犬や、リハビリ中の犬もいるだろう。相手の犬が大丈夫ではない状況にある可能性も考える必要があるのではないだろうか。

とはいえもちろん、相手の飼い主さんに対してプラスに働く”ウチの子は大丈夫”も、中にはある。先に自分と犬の状況を相手に伝えて相手に選択権や決定権をゆだねることで、安心を与えることができるからだ。しかし、”ウチの子は大丈夫”と言って、ウチの子のケアをしていないと思われる人が一定数いるのも現実だ。『ウチの犬なら大丈夫?過小評価されがちな家庭犬の子どもへの危険性』にもあるように、人はついついウチの子(犬)に過度の信頼をしてしまいがちな傾向にあるためなのかもしれない。そもそも大丈夫レベルは人によっても異なるものだから難しい。

ついつい言ってしまいがちな“ウチの子は大丈夫”。

けれどもそれを言う前に、みなさんには是非ひと呼吸置いて、自分と犬、相手の飼い主さんと犬を含めた周りの状況をよりよく把握してから使っていただけたらと思う言葉である。

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