文:尾形聡子
[photo from University of Veterinary Medicine, Vienna Press Release]
残念ながら、世界的に見ても犬による咬傷事故はあとを絶ちません。そして、子どもが咬傷事故に遭うことも多く、とりわけ犬のボディランゲージのわからない幼少期の子どもが受ける咬傷事故は、大きな問題のひとつとしてとらえられています。
単純に、小さな子どもは犬を触ったり追いかけたりするのが好きな傾向があります。さらに一緒に家で暮らす犬となると、所かまわずいじったり、抱きしめたり、べったりと寄り添ったりもします。しかし、あまりにも近しい接触はときに犬にとって鬱陶しいものです。ですので親などの監視者が、犬が子どもにストレスを感じる状況にあることにいち早く気づき、それに遅れず間に入って両者の接触を中断させる必要があります。
家族の犬と子どもが触れ合う様子は微笑ましく目に映るのかもしれませんが、実際は、同じ家庭に暮らす犬に咬まれてしまう幼少期の子どもが決して少なくありません。たとえ親の監視下にあっても、そのような事故が起こってしまうのはなぜなのでしょうか?ウィーン獣医大学の研究者らが1~6歳の子どものいる飼い主に4ヶ月にわたってオンライン調査を行い、その結果を『Journal of Veterinary Behavior』に発表しました。
調査から、参加者のほとんどの人が”犬は咬む”という一般的な危険があることは認識していながらも、その危険性を過小評価していたことがわかりました。それはより小さな犬について見られる傾向にありました。
また、飼い犬よりも、見知らぬ犬と子どもが接触するほうが、より危険であるという回答だったそうです。見知らぬ犬に対しては、咬まれるリスクが比較的低い状況でも危険性をはらんでいると評価されていたにもかかわらず、飼い犬に対しての評価は異なっていました。犬のベッドの上で子どもがべったりと寄り添う、という状況についてだけは潜在的な危険性があると評価されていたものの、それ以外ではどんな状況下でも子どもと犬の接触を中断させる必要がなく、リスクがないという評価がなされていたようです。
さらに、回答者のおよそ半分が、子どもが好きなだけ犬と遊んだり寄り添ったりするままにさせていると答えており、また、同じくおよそ半数が、大人の監視下にないところで子どもと犬を一緒にさせていると答えていました。
このような結果から研究者らは、多くの人は飼い犬に対して信頼を寄せており、咬傷事故の危険性があるという意識を取り去ってしまっていることを示すものだとしています。また、このことは注意の行き届かない状況をつくりだすだけでなく、自らの飼い犬が特別にほかの犬よりより寛容で忍耐強い、と思ってしまいがちでもあることだといいます。
そのほかにも散歩や食餌といった犬の基本的なニーズを理解しているかどうかの調査では、飼い主の多くが、犬が小さな子どもから離れて、邪魔をされずにゆっくり食餌をしたり休んだりする時間を必要としているということを知らなかったようです。空間的に子どもと犬を離すことは、子どもが咬傷事故にあうこともなく、犬も子どもに邪魔されずにリラックスできる機会を持てるということであり、そのためには、犬がゆっくりできる自分だけのスペースを確保する必要があると研究者らはいっています。
幼少期の子どもが犬の嫌がる様子を察知し、べたべたと触ることをタイミングよく自発的にやめることができるものでしょうか。犬にとって過剰な我慢を無意識にでも要求してしまうことがあれば、いつしか犬は咬むという行為で対応せざるを得なくなるかもしれません。正しい理解を持っていれば未然に防げる咬傷事故があるという認識が、社会にもっと広まっていく必要性を感じています。
(本記事はdog actuallyにて2016年9月20日に初出したものを一部修正して公開しています)
【参考サイト】
・University of Veterinary Medicine, Vienna Press Release
・Journal of Veterinary Behavior
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