セラピー犬は仕事中にストレスを感じている?

文:尾形聡子

[photo by DebMomOf3]

動物介在介入(Animal Assisted Interventions:AAI)のひとつ、動物介在療法(Animal Assisted Therapy:AAT)はドッグセラピーとして広く知られるようになりました。高齢者施設やリハビリ施設、病院などでは、人々の身体や心の機能向上を目的としてセラピー犬を導入するプログラムが実施されています。

実際にセラピー犬として活動できるようになるには、通常、セラピー犬としての適性を備えているかどうかがチェックされ、その後、過度にストレスを感じないようにするなどの特別なトレーニングプログラムを受ける必要があります。とはいえ、トレーニングを受けてセラピー犬として一線で活躍するようになったからといって、犬たちがストレスを感じていない可能性は完全に否定できない状況にありました。

犬に癒しの力をもらっていながら、犬にストレスを与えてしまっているのではないか?

人のために働いている犬たちの福祉を守っていく上で、その点を考慮することはとても重要です。アメリカの研究チームでは、“犬と子どものがん研究(Canines and Childhood Cancer Study)”の一部として、セラピー犬が治療セッションに参加する際のストレス状態の変化について調査し、結果を『Applied Animal Behaviour Science』に発表しました。

犬は楽しんでセラピーの仕事をしている?

研究者らは、アメリカの5つの子ども病院でがんと診断された26人の子どもに対して4か月間セラピーセッションを行いました。すべてのセッションはビデオに録画して、犬の行動を詳細に解析。また、ストレスの指標となるホルモンであるコルチゾールのレベルを測定するため、ベースライン(犬が家にいるとき)、犬が病院に到着した後、セッション開始から20~30分後に唾液サンプルを収集し、コルチゾール濃度が測定されました。さらに、セラピー犬のハンドラーにはC-BARQ(統計学的手法を用いた犬の気質や行動特性を解析するシステム)のアンケート調査も行われました。

ビデオ解析の結果、セラピー犬にはストレスに関連するような行動はほとんど見られず、多くが親和的で友好的な行動をとっていました。また、コルチゾール濃度に関しては、ベースラインと治療セッション前後のサンプルの間に有意差は見られませんでした。C-barqと行動との関連性の解析からは、見知らぬ人に対する恐怖のスコアが高い犬は、セッション中の親和的行動が少ない傾向にあることが示されましたが、そのほかには特筆すべき関連性は見られませんでした。

つまり、セラピー犬は治療セッションを行っても、生理的なストレス反応を増加させることはなく、治療の状況を楽しんでいるようであった結果ということになります。

また同じチームの別の研究では、セラピー犬が子どものがん患者の精神面にプラスになるだけでなく、両親のストレスレベルも大きく下げていることが示されています。これまでに、成人のがん患者へのドッグセラピーがいい影響をもたらしているという報告もされています。

[photo by Arctic Warrior]

昨年、日本で3頭目となるファシリティドッグ(病院に常勤する犬)のアニー(ゴールデン・レトリーバー)が神奈川県立こども医療センターに着任したというニュースがまだ記憶に新しいところです。少しずつは増えてきてはいるものの、日本ではドッグセラピー(アニマルセラピー)を取り入れる病院はそれほど多くないのが現状でしょう。

人には決して真似することのできないヒーリングの力を犬は備えていると思います。セラピー犬が治療セッションでストレスを感じていないことが示された今回の研究を受け、子どもから大人まで、がんや重い病気を抱える人々に向けたドッグセラピーというものへの理解をより多くの人に深めてもらうことの重要性を感じるものです。

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【参考サイト】

Psychology Today

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