
[Photo by Maël BALLAND]
年初めの犬曰く、いつも通りに干支に関係する犬の話だ。今年はありがたいことに、うま年。というのも、これぐらい犬と関係を作りやすい動物はおらず、書くネタにこまらない。犬の世界には馬と関係を深く持つ犬がたくさんいるのに気がついていたかな?
まずトップバッターは、ジャック・ラッセル・テリア。イギリスで馬を飼っているところなら、たいていそのあたりをウロウロしている輩だ。イギリスのみならず、ここスウェーデンでも、ほとんどの乗馬クラブに1頭、2頭は姿を見せる。クラブが飼っていなければ、馬のオーナーが連れてくる。否が応でも、ジャックに出会うことになる。
なぜ「馬といえばジャック」なのか。それは、イギリス貴族が馬に乗り、ハウンドとともにキツネ狩りをしていた時代に遡る。ハウンドに追い詰められたキツネが穴に潜ると、そこから追い出す役目を担ったのがテリアだった。
ジャックに限らず、さまざまな国の馬房を訪れると、その土地に合ったテリアがやはり存在している。スペインでは、ジャックを脚長にしたようなラトネロというテリアに出会った。デンマークやスウェーデンには、「デニッシュ・スウィディッシュ・ファームドッグ」というトライカラーの農場犬がいる。いずれも馬房でネズミを捕る、頼もしい存在だ。

これが、スペイン南部に限定的に存在するローカルなテリア、ラトネロ。馬房でネズミ捕りをしながら日々を過ごす。彼らのその仕事ぶりは人間にとって非常にありがたく、だからこそ「馬房の犬」として存在し続けてきた。[Photo by Rikako Fujita]
ダルメシアンが馬車の伴走犬として活躍してきたことは、以前にも触れた。ダルメシアンの飼い主によると、彼らの馬への愛着は、どうやら生まれつきらしい。もちろん、馬に馴らすことが前提ではあるが、一度「馬」という存在を受け入れると、喜んで一緒に走ろうとする。規則的にカラカラと動く車輪や、馬の歩様に惹かれるのだという。走ることが大好きハウンド犬であるがゆえに、その愛が馬への親和性につながっているのだろう。

イギリスのダルメシアンと行うキャリッジ伴走競技。ダルメシアンの中には、このように車輪の間に入って走りたがる犬がいる。[Photo by Paul Tester]
とはいえ、人間に接するように、馬に向かって走り寄り、尾を振ったり体を寄せたりすることは決してしない。馬の存在を認め、互いにそばにいることを楽しんでいる、と考えるといいかもしれない。
というのも、馬の方がそもそも犬の「フレンドリー」行動をあまり理解しないからだ。私の犬が初めて馬に接したときのこと。馬に睨まれ、どうしたらいいかわからなくなり、勢い余ってプレイバウ(遊ぼうというシグナル。前肢を低くし、後肢を上げる姿勢)を始めた。犬としては、
「そんなにピリピリしないで。ほら、僕はフレンドリーだよ。遊ぼうよ!」
というメッセージを送った。だが馬はそんな犬の親愛シグナルを理解しない。
「何よこれ。変なことしないで」
と後ずさり。馬によっては
「これ以上つきまとうなら追い払うぞ」
という気配で、上から睨みつける。馬にとって心地よい相手というのは、適切な距離を保ってくれる動物だ。馬と犬を比べると、馬は捕食される側の動物であり、犬は捕食する側の動物だ。どうもこの辺でバランスが崩れやすくなる。馬は、何かあれば逃げよう、逃げようと準備しているし、犬の方は捕まえる側だから、追いかけっこそのものを楽しむ。したがって馬の機微を読み、ボディランゲージを尊重できる犬でなければ、本当の意味で仲良くなることは難しい。

[Photo by Eudyptula]
馬との歴史を持つ犬種だけが馬を好むわけではない。馬となにも関連がなかった犬種だって、馬に興味を示すことがある。以前、日本のテレビ制作会社から「スウェーデンで珍しい柴を探してほしい」という依頼を受けたことがある。探してみると、なんとダルメシアンさながらに、馬車と一緒に走る柴がいた。
ただ、柴は馬に比べると小さく、映像としてはやや迫力に欠ける。そこで、「いっそ乗馬の際に犬も馬に乗せて撮影してはどうか」という話になった。馬の横を走ることには慣れていたその柴も、馬に乗るのは初めて。それでも、しばらく緊張した様子を見せたあと、持ち前のあの冷静さで状況を理解した。
「なるほど。馬の背中の上で大人しくしていればいいのだね」
背上で騒げば馬を驚かせることを、本能的に察したのかもしれない。飼い主とともに静かに馬の背に収まり、結果として、人と柴の二人乗り(?)という、素敵な映像が撮れた。びくびくしやすい馬と付き合うには、何よりも冷静さが必要だ。その資質を持つ犬なら、馬とともに過ごすことができる。

柴、飼い主といっしょに乗馬![Photo by Rikako Fujita]
ここまで読んで、
「それなら、うちの犬も馬と仲良くさせたい!」
と思った方もいるだろう。とても嬉しいことだが、ひとつだけ注意点が。絶対に、犬を馬の後ろから近づけさせないこと。馬の後方は死角になりやすく、彼らは「いつ襲われるかわからない」という本能の世界に生きている。突然の音や気配に驚き、犬が蹴られてしまう危険がある。犬と馬を仲良くさせるには、まず互いがマナーを学ぶこと。それが何よりも大切だ。

