スローフードと犬の関係

文と写真:藤田りか子

犬はスローフードのシーンに、もっと登場してもいい存在だろう。ヨーロッパでは家畜、地元の犬、馬や文化が、ひとつのパッケージとして、スローフードの動きに貢献している。写真はケルピーがローカル産の羊を動かしているところ。ちなみにこのケルピーはワーキング系。ショータイプ、ペットタイプのケルピーに比べて、見かけがちょっとミックスっぽいのが特徴だ。

9月。農作物の収穫も終わり、スウェーデンでは収穫祭やスローフードやローカル・フードの展示や催し物が盛んに行われる。

スローフードとは地元に根ざす食文化、食材を保存しよう、復興させよう、そしてそれをもとに発展をさせよう、という動きだ。日本でも4年前ぐらいに盛んに語られたものだ。イタリアを発祥とする。家畜におけるスローフードは、人工飼料と抗生物質を大量投入したり、工場のように肉牛の豚を狭いところに閉じ込めたまま大量生産をするのとは反対の営みとなる。地元に昔からいる牛種や羊種を飼育することや昔ながらの農業法によって自然の草を食べさせる、そして自然放牧とか、そんなことだ。

フェアのブースで、地元ならではのスウェーデンの種の羊を飼い、良質の羊肉を生産するおじさんに出会った。彼は言う。

「いい肉を生産させるためには、羊はいいものを食べなければならない。そこでいい草となるのだが、それを食べさせるには、羊をたえず動かして、牧草地を変えること。そうすると、夜の間に草が伸びる時間ができる。その栄養たっぷりの新しく育った草を、羊が食べてゆく。羊を絶えず動かすのはめんどうくさいかもしれないが、そこは犬にやらせればいいんです!」

なるほど。横を見ると、このおじさんのコーナーとならんで、「牧羊犬友の会」がブースを開いていた。ちなみにこの友の会には、牧羊犬を「職業的」に使う人もいれば、趣味で羊を追わす人、あるいはシープドッグ競技会に燃えている人、とさまざまな目的を持つ牧羊犬愛好家が属している。共通の目的は「羊を追う犬を育てること」「ブリーディングすること」「訓練すること」であり、単なるオフ会の集まりではない。さらにブースの横には、羊の肉でできたソーセージや羊の乳から作ったチーズが売られていた。何はともあれ、牧畜フェアなのに、犬の愛好会がブースをが置いているのだからヨーロッパはやはりこういう面では開けている。

考えてみれば、スローな牧畜を行うとなれば、犬が欠かせないのはむしろ当たり前だ。そして現在のほとんどの犬種はかつて使役犬として活躍していた犬たちの末裔で、多くは牧草地出身だ。ジャーマン・シェパードもコーギーも…。

猟犬が活躍して得たワイルドミート(イノシシやキジなど)をソーセージにして売っている。

犬がスローフード・ムーブメントやローカルの文化保存運動のなかに、確実に組み込まれているのは、今回のスウェーデンの牧畜フェアだけでない。ヨーロッパの田舎を歩いても、明らかだ。牧畜だけではなく、猟犬が活躍してワイルドミート(イノシシなど)を得て、そしてソーセージにして売っている店も、フランスなどで見てきた。スウェーデンのフェアではヘラジカの加工品(ソーセージなど)も盛んに売られているものだ。彼らは家畜にされていないので、これは文句なしに犬のお手柄である。なんといってもヘラジカは犬なしでは絶対に狩ることができないのだ。彼らがあのだだっ広い深い針葉樹の森から、ヘラジカをそのよく効く鼻で「掘り出して」こなければならない。英語の表現で言うところの「干草の山の中から針をさがす」ような作業だ。とても人間の力だけでは及ばない。

カントリーフェアには、こんな風に使役犬の犬種クラブのブースもいくつも設けられている。

一つ気がついたのは、犬をも巻き込んで昔ながらの農業や牧畜を営もうとする人の中には、比較的若い人がたくさんいることだ。そして教育レベルもとても高い。古いものや方法を尊び、それを時代に合うように何か新しいものを作っていく。となると、使役犬の出番は決して廃れたものではない。これからもどんどん活躍しそうではないか。あるいはあるものは復興するだろう。

(本記事はdog actuallyにて2011年10月26日に初出したものを一部修正して公開しています)