文と写真:藤田りか子
今回は大型犬のドッグスポーツのお話。
荷車犬の歴史的背景
バーニーズやニューファンドランドが歴史的に荷車引き犬として仕えてきたのをご存知だろうか?ロットワイラーや、ベルギー、フランス、オランダの大型犬もかつて荷車を引く仕事を行っていた。そう、荷車を引くのは馬だけではない。昔は犬達だって「馬力」となっていた。
「貧乏人の馬」とも呼ばれたこともあったが、彼らの犬力(?)は相当のものでよくトレーニングを重ねた大型犬なら馬の力に匹敵するほど。戦争中はシェパードも弾薬を積んだ荷車を引く役目をこなしていた。と考えると人間に貢献した犬の役目というのは本当に広いものである。
バーニーズはスイス出身の牧畜犬だ。番犬専門の牧畜犬というよりも、酪農家の元で、ありとあらゆる雑用をこなす農業犬でもあった。時には番犬、ある時は荷車引きの労働も行っていた。彼らが絞りたての牛乳缶を市場まで運ぶ役割を担っていたのは有名である。冬は橇も引いたりしていた。
ニューファンドランドはカナダのニューファンドランド沿岸で漁業の手伝いもしていたが、切り出した木材の運びも行っていた(ニューファンドランド半島一帯はタイガの森林地帯でもある)。馬を使うよりも、犬だったら御者なしで目的地に戻るという訓練も可能だし、また馬が通れない難しい地形も犬ならクリアできる。1894年の記録によると、なんと郵便物運びの荷車犬としても活躍していたそうだ。さぞかしニューファンドランドは荷引き犬として重宝したに違いない。
ドラフトドッグというスポーツ
世界には犬の能力を残そうと熱心なファンシャーがいるもので、なんと、バーニーズやニューファンドランドのためにドラフトドッグスポーツというのが考案されている。ドラフトドッグスポーツにはカートとワゴンを引くものがある。カートというのは二輪車、ワゴンは四輪車のこと。アメリカやイギリスで行われているニューファンドランドの競技はカーティング(カートを使う競技)が主流だ。スウェーデンやスイスではバーニーズ(グレートスイスも含む)のためのワーキングテストというのがケネルクラブ公認スポーツとして存在しており、そこではワゴンを引く。競技会では細かく指示された設計を元にした規定のワゴンを使っている。テストでタイトルを勝ち取れば、もちろん血統書にそれが登録される。
ハスキーなどもドラフトスポーツをおこなうが、こちらはスピードを競う点が異なる。ハスキーの場合、人間の交通手段としての橇引きが歴史的背景にある。バーニーズやニューファンドランドの場合、荷物を引くという労働の肩代わり。それで、速さよりいかに「右」「左」「止まれ」といった指示に従うか、服従競技の要素が多分に盛り込まれた競技プログラムとなっている。
ドアを開けるという種目もあり、そこでは人間が柵を開けている間、犬がきちんと待っていられるかが審査される。
たとえば、競技中ハンドラーは、犬にリードをつないで行く方向を操作してはいけない。ワゴンの後を歩き、そこから声でコマンドを出してポールの間をジグザグに歩かせる。そして競技を見れば分かるのだが、どの犬もハンドラーの指示に従うために、アイコンタクトを絶えずとっている。もちろんこの「ゲーム」を犬も楽しんでいるのは確かで、それは彼らの尾が競技中に高々と上げられていることからも判断できるのだ。