
元祖ちんくしゃ顔の犬といえば…?! [Photo by Peter Remnemark]
文:藤田りか子
狆とパピヨン
可憐な小型犬。ロングコートがまるで金魚のひれのようにたなびいて。白地にブチ。狆はジャパニーズ・スパニエルなどと外国では呼ばれていたぐらい、なるほど小型スパニエルによく似ている。対するパピヨン。矮小型のスパニエルを起源としているので、原産国名の直訳で「大陸小型スパニエル」と呼ばれている。何故「大陸」と名づけるのかと言うと、イギリスと大陸部のヨーロッパを区別をする感覚がヨーロッパ人にはあるから。そして多くのスパニエル種はイギリスで犬種が確立されているからなのである。
しかし、狆は起源的にヨーロッパのスパニエルとまったく関係はない。アジアを故郷とする、純粋な東洋犬だ。また歴史を通してタイプが固定されていた日本唯一の小型愛玩犬でもある。日本犬というと、柴犬などのスピッツ系ばかりを考えてしまうが、狆というオリジナルの愛玩犬がわが国にもいる事実を忘れてはいけない。
さて両種の簡単な見分け方は、垂れ耳か、立ち耳か。パピヨンという言葉は蝶を意味する。長い毛が立ち耳を飾り、それがまるで蝶の羽のようで、そう名づけられた。と考えると、パピヨンなら立ち耳、と連想し易くなるだろう。ただし耳の特徴だけで、両者を区別するのは本当は十分ではない。というのも、パピヨンの親戚犬種にファレンというのがいる。ファレンは垂れ耳で、耳以外はスタンダードも起源もパピヨンと同じだ。ファレンは「蛾」を意味する。
となると、垂れ耳同士のファレンと狆をどう区別したらいいのか。もっとも日本にファレンはほとんどいないので、遭遇することもないだろうし、したがって間違えることもほとんどないのだが…。
狆くしゃ、という言葉が日本にある。狆から由来している。目と鼻と口がすべて中央に集まった顔のことで、美人とは反対の意味に使われる。ただし狆は狆くしゃでもすごく可愛い。そしてこの特徴こそ狆とパピヨン、ファレンを大きく隔てる。後者2種はいずれもマズルに長さがある。写真を参照に。
マズルのペタンコぶりは、狆のスパニエルとのつながりを否定できる材料となる。これは中国系の愛玩犬の典型的特徴だからだ。ペキニーズにシーズー。チベタン・スパニエルにパグ。みなマズルが短い。そして狆も大陸から日本へ入ってきた。狆くしゃ顔を備えているわけである。

パピヨンの同胎犬の中には、ときおり垂れ耳の子犬が生まれることがある。その場合、その犬は立ち耳のパピヨンではなく、垂れ耳タイプの「ファレン」として登録される。[Photo by Shutterstock]

元祖小型スパニエル。キングチャールズスパニエル。ちなみにキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルと混同しないように!この狆クシャの顔、狆ににているのだ [Photo by Shutterstock]
ロットワイラーとドーベルマン

垂れ耳でかつ断尾を施されていない北ヨーロッパのドーベルマン[Photo by Rikako Fujiga]
どちらも凶暴なイメージがあるというだけで混同されてしまう。アメリカ映画などで、人を襲う恐ろしい犬として登場するのは、たいていこの2種のどちらかである。凶暴性があると思われてしまうのは、非常に訓練性のよい犬だから。コマンドを出せば、襲撃し、次のコマンドをだせばそれを止める。映画によく登場するのも、役者としてよく訓練が入る証拠でもある。同じく訓練性がいいといわれるボーダー・コリーと異なるのは、ロットワイラーとドーベルマンには強い防衛気質が備わっていること。何かあれば、事態を大事に受け止め、必要とあれば防衛の行為も辞さない。
それで両種は世に役立つ護衛犬としても使われ、警察犬種であり、軍用犬としても優れている。逆にその性能が犯罪者によって使われてしまうと、武器にもなってしまう。武器扱いされ、欧米で危険犬のレッテルをよく貼られているのは、ドーベルマンよりもたいていロットワイラーのほうである。頭部が大きくマズルがつまり、マスティフ系の特徴が色濃くでているロットワイラーは、いかにも怖そうだ。それで余計にギャング団の若者に好まれてしまう。
ドーベルマンはその血に視覚ハウンドも入っており、見掛けは精悍でありながら、エレガントでもある。断耳をしていないドーベルマンのプロフィールはまるでハウンドのようだ。性質も「脚に羽が生えたかのように」と表現されるほど、活発で走りたがり屋だ。
ロットワイラーは、バーニーズの親戚でもあるグレートスイスドッグに近い。マスティフ系特有の牧畜番犬の気質をもっている。牛や主人のガードをするのが使命なので、その場に居る、あるいはついていく性質が必要だ。「勝手にちょろちょろ動き回る」という気質はそれほど顕著ではない。だからといって、家でごろごろするだけの運動をさせない生活がいいというのではなく、作業犬だからメンタル面での刺激は大いに必要となる。ぼんやり「愛玩犬」として飼っていると、防衛・番犬本能の強さから、扱いの難しい犬になるし、時には本当に危険な犬にもなってしまう。
警察犬の代表種、シェパードに比べると、ドーベルやロットワイラーと仲良く幸せに暮らすには、より多くの努力と時間が飼い主側に必要とされる。
すらりとスリムなドーベルマン、どっしりマッチョなロットワイラー、起源の上では決して遠い親戚同士ではない。定かではないが、ドーベルマン作成の父ルイス・ドーベルマン氏は、ロットワイラーのプロトタイプとなった牧畜犬をベースに、ワイマラナーや古いタイプのシェパードの血を入れて作ったようだ。フランスにボーセロンという、同じく警察犬種がいるが、犬種の誕生当初では、ドーベルマンはもっと骨太でボーセロンに非常によく似ていた。一方ボーセロンは、ロットワイラー、ブリアード、ジャイアント・シュナウザーのような牧畜犬の系統に属している。
ちなみにむしろボーセロンをドーベルマンと混同してしまうのはよくあることだ。

ボーセロン [Photo by Stefan Schmitz]

ロットワイラー [Photo by YouraPechkin]
サモエドとピレニーズ

サモエド [Photo by nensi19]
まだ、日本が今のようなダックス・チワワ・トイプー・ブームではないとき、白い犬がやたらと好まれていた時代があった。それでサモエドやピレニーズを飼っている人などを、ちょっとしゃれた住宅街なんかにいくと、見かけることがよくあった。
そんな大型純白洋犬は日本にいた歴史がなかったので、あの頃は一度見れば「おおっ~!」と大変感銘を受けたものだ。インパクトばかりが先行してしまい、結果「白くて、大きくて、やたらにフワフワした犬」と十把一絡げに、サモエドとピレニーズをごちゃごちゃにしていた人も多かった。今ではそんな人はあまりいないと思うのだが、それでも個人的にそういう人を数人知っているので、念のために区別の仕方をここに示してみたい。

グレート・ピレニーズのパピー [Photo by aiko vanhulsen]
まずは犬種のカテゴリーの面から。サモエドはハスキーや柴犬と同様のスピッツ系だ。FCIでは第5グループに属している。そしてピレニーズはマスティフ系でFCIでは第2グループ。
スピッツ系の特徴はとんがり耳にとんがりマズル。尾がくるりと巻きあがっていることも多い。サモエドはその典型的ルックスを備えている。しかしこれほど毛がフワフワ・モフモフとしたスピッツはほかにいない。出身地は、ロシアの西北部周辺のサモエド族が住む地域。そこで、トナカイのハーディング、そり犬、猟犬などと、シベリアの厳しい自然の中で何でもこなせる便利犬として飼われていた。ただし現地では必ずしも純白の犬ではなかったし、これほど大きくもなかった。今のような見かけになったのは、1800年代の後半にイギリス人に発見されその後ショードッグとしての改良を受けたから。にもかかわらず、そり犬として活躍している犬もいる。まだそんな素質が残されているのは驚くべきことだ。
ピレニーズは、マスティフ系の犬に典型のたれ耳で丸い頭部、太めの短いマズルを持つ。フランスとスペインの国境を走るピレネー山脈で牧畜番犬として飼われていた。よって、食肉の野生動物をおどかすために、体は大きくなければならない。サモエドよりもさらに胴体は長く、体高も高い。ピレニーズの場合、白い犬であるということは絶対だ。地元の牧畜家は、羊の番犬を選ぶにあたって、羊とよく似た色の犬を使いたがったからだ。白い牧畜番犬は、ほかにも多くのヨーロッパ国に存在し、彼らを犬種ごとに識別するのは、サモエドと区別するよりもさらに難しい。いずれもみな、どこかで血がつながった犬種同士だ。
そり犬、ハーディング犬の歴史があるだけに、サモエドには多くの運動が必要。ピレニーズは羊といっしょにその場にとどまる犬だからアクティビティレベルは低い。しかし番犬気質が強いので、多くの社会化訓練を施さなければならない。
【関連記事】




