犬嫌いの人にあったらどうする?

文:藤田りか子


[Photo by Alexander Lunyov]

言わずもがな、スウェーデンにも犬嫌いとか犬恐怖症の人はたくさんいる。だから我々のような森の一軒家に住んでいるものが、いざ街に犬連れでいくときは、かなり気を遣う。

「わざわざ気を遣うの?」

と驚かれるかもしれない。が、田舎に住んでいると、「犬連れの際に他人へ気を遣う」という感覚がなかなか育たないのだ(そしてうんち袋を持って歩くという習慣も育ちにくい…)。それもそのはず、なにしろ滅多に人に会わないのだから。街暮らしの人であれば、「他人に配慮しながら犬を歩かせる」というのが日常の中でほぼ自動化されて、意識せずともできているのではないかと思う。

我が家には4頭(ラブラドール3頭、カーリーコーテッドレトリーバー1頭)の犬がいるが、街を歩くときは、ドッグシッター歩きのように群全体を連れ出して散歩、はやらず、やはりせいぜい2頭まで。とはいえ、うちのラブラドールズは従順だから、3頭立てでも歩くことはできる。しかし「通りを歩く人に気を遣う」という私の精神的ハードルを考えると、2頭が限界。

犬が苦手な人というのは、正面から歩いてきた瞬間にすぐわかる。顔の強張り方、視線、動き。みなさんもそんな経験をしたことはないだろうか?そのようなときは急いで犬を反対側につけて、脚側にしてすれ違う(そしてラッコの場合であれば、リードは短めに持つ)。それから「文化背景」によっても、「今気をつけなければ!」と構えるときはある。スウェーデンにはイスラム圏の移民が多い。宗教的背景から、犬を「不浄なもの」「汚いもの」と捉える人も少なくない。私の経験からすると、たいていの人が犬を避けようとしてきた。特に子供達など「怖いよ〜!」と親の後ろに隠れたりする。

いつだったか公共バスにラッコと乗ったときのこと。スウェーデンでは犬連れはバスの一番後ろに座らなければならず(動物アレルギーを持つ人に対する配慮である)、バスの通路を後方へ進んでいった。と、イスラム系と思しき男性が座っているのが見えた。急いでラッコのリードを10cmほどに短く持った。ラッコはラッコで通路を歩きながらおどけたように、座っている乗客ひとりひとりに鼻でコンタクトを取ろうとするのだ。その男性はラッコが近づくなり、慌てて身体を窓側へ避けた。

「すみません!」

うわわ、なんと申し訳ない…。こういうとき、うちのラブラドールズだったらパーフェクトに振る舞うんだけどな。人と目を合わせないようにしながら私に従ってスタスタと歩いてくれるのだ。ちゃんと飼い主の空気を読み、何事においてもシリアスに対応してくれる。ラッコとは大違い。


家庭犬として狩猟犬としてアシカは申し分のないレトリーバー![Photo by Rikako Fujita]

犬恐怖症といえば、私のパートナーであり同居人でもあるカッレの息子、D君もそうだった(30歳の立派な成人である)。小さい頃に大きなシェパードにお尻を咬まれて以来、犬を怖がるようになった。しかしその彼が今や、私が留守にしているときなど、時間があれば犬を世話してくれているのである。

彼が犬を怖がらないようになったきっかけは、アシカ(我が家の最初のラブラドール)である。D君が怖がっているのをわかって、彼女は決して自分から彼に近づくことはなかった。「ちょっと待って」といえば、「はい!」と座るか伏せをして従順に待つ。ドアを開けても勝手に出て行かない。人が何を望んでいるのかを常に察し、先読みしながら動く。いつも私は言っているのだが、アシカは半分犬で半分人間のような生き物なのだ。D君ですら、彼女にとても感銘を受けた。

何度か我が家に遊びにくるうちに、アシカの賢くかつ謙虚な行動のおかげで、次第にD君は犬そのものに打ち解けられるようになった。アシカの行動の全て反対を行くラッコに対しても、それまではよだれをつけられると、「汚い!」と言わんばかり丁寧に手を洗っていたものだが、最近ではそれすら許容するようになった。驚きである。

犬嫌いな人に「犬は優しいですよ」とか「犬は滅多なことで咬みませんよ」と行動学を振りかざしながら「犬を怖がる必要はありません」と説得したところで、それは無意味だ。けれども、犬が上手に距離をとり、たっぷり時間を与えてくれることで、犬が苦手な人でも次第に心を開いてくれることもある。アシカはそれを見せてくれた犬だ。人を怖がる犬を、人に慣れさせるときと、まさに同じ方法だ。とはいえ、私の知人にこんな人がいる。

「私ね、犬嫌いの人に出会うと、鼻でフッとせせら笑って、『うちのイネスは世界一のワンコなの。それに比べると、人間なんてクソよね〜』って言うんです。そしてニコニコしながら相手に向き直って

『撫でます?』

って聞く(笑)。たいてい、みんなびっくりして、うちのチワワを撫でてくれますよ!」

ただしこの戦法を使える人は、飼い主自身にそれなりの「自信」とカリスマが必要だと思う…!