文と写真:藤田りか子

[Photo by Vitaly Gariev]
高校教育にある犬部門
スウェーデンには、犬学やドッグトレーニング、飼育学などを含め、犬を専門的に学べる「高校」がある。これは世界的に見てもきわめてユニークな制度である。もちろんアメリカやイギリスにも、高校の段階で動物や犬に触れる教育は存在する。が、その多くは動物ケアや農業教育としての一部、あるいは学校ごとの選択科目にすぎなかったりする。犬を一つの専門分野として制度的に位置づけているスェーデンの例は非常に稀だ。
のみならず、犬に関わる教育は「自然系産業プログラム(Naturbruksprogrammet)」という国家レベルの職業教育の中にある。自然系産業プログラムには、各高校にもよるが、犬学や小動物を扱う動物ケア教育もあれば、馬術や厩舎管理を学ぶ馬学もある。ほかにも、野生動物の個体管理や狩猟を含む森林・野生動物管理学、釣りを軸にガイドや観光を学ぶスポーツフィッシング学、さらには養殖など商業漁業学や、農業、ツーリズムといった分野まで、多岐にわたる。そして、将来の職業と直結した教育として設計されている点が特徴だ。
日本にも、このような動物関連の教育は高校卒業後の専門学校に存在する。しかしスウェーデンのユニークさは、それらがすべて「高校教育の中」に組み込まれている点だろう。15歳の段階で職業志向の進路を選択し、国語や数学、英語といった一般科目と並行して専門教育を受けることができるのだ。もし私がスウェーデンで育っていたならば、迷うことなく、自然系のカリキュラムがある高校に進んでいたはずだ。
スウェーデン全国に7校ほど
小動物の看護学などアニマルサイエンスの一環として犬についても学べる高校は、全国におよそ60校。そのうち、犬に特化したカリキュラムがある職業高校は7校ほどに限られる。その元祖ともいえるのが、スウェーデン中部の小さな町フォシュハーガにあるフォシュハーガ・アカデミーだ。犬を中心としたカリキュラムをいち早く取り入れた学校である。生徒は全国から。犬部門はこの高校の中でも「ドッグスポーツ・ジムナシウム(=高校)」と呼ばれており、犬に興味がある若者たちにとって魅力的な進路の一つとなっている。

日本でもお馴染み、犬の遊びの本で有名になったイェシカ・オーベリーさんがゲスト講師としてフォシュハーガ・アカデミーにて講義。テーマはもちろん「犬の遊び」。
もともとこの学校は、アウトドアやスポーツフィッシング、狩猟管理を学ぶ教育機関として出発した。その中に含まれていた猟犬の科目が特に人気を集めたことから、犬に特化した教育プログラムへと発展していったという。3年間の教育の中で、飼育学、繁殖学、ドッグトレーニング、栄養学、小動物医療学など犬に関する専門科目は全体の60%を占める。これら犬関係の教育カリキュラムはスウェーデン・ケネルクラブ、およびその傘下にあるスウェーデン・ワーキングドッグクラブ、そり犬スポーツ協会などの協力を得て構成されている点も興味深い。課外授業も豊富で、軍用犬の訓練施設を訪れたり、大きなインターナショナル・ドッグショーをクラスで見学したりする機会もある。
もうひとつスウェーデンらしいのは「実践環境」の豊かさである。多くの生徒が自分の犬を連れて登校し、日常の授業にも犬を同伴できるし、当然トレーニングの授業ではその犬を用いる。犬を飼っていない生徒には学校が犬を用意してくれる。技術を学ぶだけでなく、犬とともに生活し、観察し、関係を築くという経験そのものが、教育の一部に組み込まれているのだ。
生徒たちが語る「犬と学ぶということ」
この高校で犬を専攻する生徒たちの声をいくつか紹介したい。
ここでは犬と一緒に学校に通える、それだけでもすごくいい環境です。それにみんな本当に犬が好きで集まっていて、仲間意識もとても強い。授業も多くがアウトドアなので、森や自然の中で過ごす時間が多いんです。この学校はただの学校ではなく、自分自身を知るための場所でもあります。大きな家族のように支え合いながら、一緒に成長していくんです。自分自身の成長と同時に、犬の成長も見られる。それが本当に素晴らしいところです
先生たちはとても熱心で、たくさんのアドバイスをくれますし、生徒同士でも学び合えます。将来は警察で犬と一緒に働くのが夢です。この学校では、犬に関わる仕事に進むためのしっかりした土台が作れると思います

今日は森で犬のトラッキングを学ぶ授業。このように犬を学ぶ高校では、屋外での活動がとても多い。
この学校に出願したのは、もともと自分がアウトドア好きで、外で過ごすのが好きだからです。犬はまさに私の情熱ですね。ここでは犬に関わる仕事に就けるような教育を受けますが、とても幅広い内容なので、将来の進路はいろいろと広がると思います。犬に関すること、病気や犬種などについてしっかり構成された授業もありますし、実習先も自分で選べるので、将来やりたいことに合わせて調整できます。自分は将来、犬のインストラクターとして働きたいと思っています
クラスの仲間とも先生とも、とても居心地よく過ごしています。すべてが快適です。私はもともと教室という場所があまり好きではないのですが、この学校のクラスは好きなんです。この教育で一番いいところは、クラス全員が同じ興味を持っていること。だから人とコミュニケーションが取りやすいんです。これまでで一番印象にのこっている行事は、学校対抗の大会でドッグスポーツ競技に出場したことかな。いろいろな競技があったんですが、自分はオビディエンスに出ました。チームがとてもよく協力できたのが楽しかったし、みんなで一緒に取り組めたのが本当に良い経験でした
いかがだろうか。きっと皆さんの中にも、高校時代に戻れるものなら戻って、ここで学んでみたいと思う人がいるのではないだろうか。もちろん、私もその一人である。

