盲導犬とロボット盲導犬、どのような関係が生まれるのか

文:尾形聡子


[photo by Roman]

犬はさまざまな形で私たちの生活を支えています。その中でも、視覚に障がいのある人の移動を支援する盲導犬は、多くの人にとってもっとも身近な存在のひとつでしょう。

しかし、その盲導犬は常に不足していると言われています。盲導犬を育てるためにはかなりのトレーニング期間と資金が必要になるためです。日本補助犬情報センターによると、2025年3月31日時点で全国で実働している盲導犬は768頭。一方で、盲導犬を希望する潜在的な人数は約3,000人とされています。

これは日本に限ったことではありません。盲導犬の不足は世界的にみられており、アメリカでも同様です。そのような背景から、アメリカでは「ロボット盲導犬」の開発が進められています。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の研究者らは、ナビゲーション能力に加えて言語機能を持つ“会話型”のロボット盲導犬を開発し、実際に視覚障がいのある人を対象とした評価実験を行いました。

一見すると、盲導犬の不足を補う現実的な解決策のようでもあります。しかし、この研究でのロボット盲導犬は、単に「目的地まで安全に連れていく機械」を目指しているわけではないようです。

会話するロボット盲導犬は、どのようにサポートするのか

開発されたロボット盲導犬は、進む方向を一方的に決めるのではなく、利用者との対話を通じて行き先をすり合わせていくように設計されています。たとえば、「喉が渇いた」といった曖昧な要求に対して、近くにある選択肢を提示し、それぞれの経路や所要時間の違いを説明したうえで、どこへ向かうかを利用者自身に選んでもらいます。

目的地にたどり着くまでのあいだも、周囲の状況や進行方向についてロボット盲導犬から言葉で説明が加えられます。どのような場所を通っているのか、どのくらい進んだのかなど、場面を言語化して情報を共有することで、利用者が状況を把握しながら移動できるようにするためです。

このようなやりとりは、現代技術による機能がロボットに追加されただけにも見えます。しかしよく考えてみると、そこでは「ロボット盲導犬が導く」のではなく、「人が選び、ロボット盲導犬がそれをサポートする」という関係が前提になっています。

盲導犬の場合も、犬がすべてを判断しているわけではありません。進む方向や目的地は人が決め、そのうえで犬が障害物を避けたり、安全に歩けるよう導いたりします。つまり、どちらか一方がすべてを担うのではなく、人と犬が役割を分けながら移動を成り立たせています。

つまり、ロボット盲導犬の研究もまた、その関係を別のかたちで実現しようとしているようにも捉えることができます。しかし、利用者とのあいだに生まれる「関係」は、相手が犬の場合とロボット盲導犬の場合とで同じなのでしょうか。


[image from arXiv fig1] 実際の実験の様子。ロボット盲導犬と歩く参加者。

盲導犬と利用者、支え合う関係

フィンランドのアールト大学ビジネススクールの研究者らは、盲導犬や医療アラート犬とその利用者の関係を、「ケア」という視点からとらえ直しています。この研究で扱われているのは、犬がどのように行動するかというよりも、人と犬のあいだでどのようにケアが生まれているのかという点です。

従来、ケアというと「ケアする側」と「ケアされる側」がはっきり分かれているものとして考えられてきました。しかしこの研究では、介助犬と利用者との関係は必ずしもそのように固定されたものではないと指摘されています。

たとえば盲導犬は、利用者の安全を守る存在である一方で、その生活や体調、周囲の状況に合わせて働く必要があります。利用者は犬に進む方向を指示しますが、実際にその場で何が安全かを判断するのは犬です。状況によっては、犬が指示に従わずに立ち止まることもあります。

盲導犬もまた、常にケアされる存在です。食事や健康管理はもちろん、働くパートナーとして無理のない関わり方を利用者側で考えることも含まれます。

このように見ていくと、そこにあるのは「どちらかが一方的に支える関係」ではありません。状況に応じて任せたり、任されたりしながら、お互いの立場が変化していることがわかります。

また、この関係は必ずしも言葉によって成り立っているわけでもありません。視線や動き、わずかな緊張の変化など、言葉にならないやりとりの積み重ねによって支えられています。相手の状態を読み取りながら、その場で調整していくような関わり方です。

盲導犬などの介助犬との関係は、ロボット盲導犬のように情報を言葉で共有しながら進んでいくという関係とは少し違って見えてくるのではないでしょうか。


[photo by 24K-Production]

盲導犬とロボットから見えてくる、さまざまな支援のかたち

ここまで見てきたように、ロボット盲導犬と盲導犬は、どちらも「利用者の移動を支援する存在」でありながら、その関わり方には違いがあります。

ロボット盲導犬は、言葉によって状況や選択肢を共有しながら、利用者自身が判断できるように支える存在です。一方で盲導犬とのあいだには、言葉にしないやりとりや、その場での読み合いを通じて成り立つ関係があります。

どちらが優れているという話ではありません。むしろ、どのように関わりたいと感じるのか、どのような支え方が自分に合っているのかは、人それぞれ異なるものなのでしょう。

かれこれ15年ほど前になりますが、盲導犬ユーザーの方に話を聞いたときに、「犬だからこそ共有できるものがある」という内容のお話をされていたことが記憶に残っています。そのときの盲導犬は2代目で、働き始めてまだ日の浅い頃でした。

「白杖でもいいのだけれど、やはり自分だけの時間を、秘密を持ちたいじゃない。大人だから。犬だからこそ、秘密を共有できるんですよ」

ロボット盲導犬の研究が示しているのは、盲導犬の代替ではなく、別のかたちでの支援を実現しようとする試みでもあることです。そして盲導犬との関係が示しているのは、支えることと支えられることが、その都度入れ替わりながら成り立つ関係です。

支援のかたちは一つではなく、どのような関係を選ぶのか、選びたいのか、ということでもあるのかもしれません。

【参考文献】

From Woofs to Words: Towards Intelligent Robotic Guide Dogs with Verbal Communication. arXiv:2603.12574v1. 2026

“He gives me everything all the time, and I feel bad that I can’t even throw him the ball”: Relational care agency in interspecies care work. Human Relations. 2026

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