さて、今回のお話は犬の食餌を手作りしている飼い主にとって気になる要素「ミネラル」について。
ミネラルとはカルシウムやリン、マグネシウム、鉄などの金属類を含む物質カテゴリーのこと、なんて誰でも知っているだろう。手っ取り早く例を挙げるとすると石や土などだけど、これらはみな重くて硬い。
化学の苦手な人には小難しそうに聞こえるこのミネラル、大別すると多量元素と微量元素に分かれ、当たり前だがそれぞれ体の代謝において重要な役割を持っている。
多量元素とはまずカルシウムを代表にリン、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩素など犬の食餌にグラム単位で含まれているべき元素のこと。微量元素は多量元素に比べてその量は少なく、それでもミリグラム(グラムの1000分の一)単位で食餌に含まれているべき元素のことで鉄や銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ヨード、セレン、モリブデンなどを指す。
はい、ここで頭がくらっと来た方、ちょっと早すぎね。
カルシウムとリンの話
犬の体に含まれるカルシウムの量は体重1kgあたり約10-15gといわれており、例えば体重10kgの犬ならば100-150gが体内のカルシウム量に当たる。
体内カルシウムの98%は骨に蓄積されていることからまず骨格に安定性を与えるというカルシウムの第一の役割が挙げられ、その次に残りのわずか2%程度が筋肉の収縮や血液凝固など代謝に利用されている。
カルシウムの需要が気にされる一方でリンの存在はほぼ忘れられがち。体内に存在するリンの80%はカルシウム同様骨に蓄積されているが、リンはリンで遺伝子を構成する核酸の分子であったり、エネルギーを供給する ATP の重要分子であったりという課題を担っているので筋肉中にはカルシウムよりも断然多くのリンが存在している。
そして通常骨と血液の間をカルシウムとリンは行ったり来たり、つまり血液中のカルシウムまたはリンが少なくなればそれぞれ骨から放出され、その逆に血液中に多く提供されたカルシウムとリンは骨に蓄積されるという、話せばとてもフクザツな体内調節機構は甲状腺と副甲状腺から分泌されるホルモンによって調節されているのだ。
日常食餌として摂り込まれたカルシウムは腸内(特に大腸)において吸収され、骨と血液中に分配されて過剰分は腎臓を通して尿中に排出される。
さて、体内カルシウムとリンのほとんどは骨に蓄積されているということで、次に骨の組成についてみてみよう。
硬くガチガチのイメージの骨に含まれている水分はなんと10%。ドライフードに含まれている水分が約12%程度であることを思うと、まあ同じくらいの水分量か。そして20%程度がコラーゲンなどのタンパク質で、残り70%程度が無機質、この無機質のうち40%がハイドロキシアパタイトと呼ばれる非常に硬い鉱物である。手足の骨だけでなく歯の大事な構成要素で、歯のエナメル質は95%がハイドロキシアパタイトであるため歯は骨よりも硬い。
このハイドロキシアパタイト、化学式にすると Ca5(PO4)3(OH)。おおっ!ここにカルシウムとリンとの比5:3の秘密があったのだ!
犬の食餌に含まれるべきカルシウムとリンの理想比が5:3であるという話、これは自然界の動物の骨に由来する。
つまり犬の食餌を考えるとき「カルシウムがなんぼでリンがなんぼ」というしちめんどくさい計算をしなくとも、自然を振り返って骨を与えていれば概ねOKということなのだ。
肉ばかりでカルシウム不足の食餌を与えるとしばらくの間は骨からカルシウムが溶け出されるので障害がないように見えるが、これが長期にわたると幼犬の場合はクル病に、成犬の場合は骨軟化症や骨粗しょう症として障害が現れる。これはヒトの場合と同じである。
またカルシウムをサプリメントとして食餌に加える場合、過剰供給はその他のミネラル吸収を阻害することにもなるので注意が必要。それよりも自然に考えるとやはり犬には骨、ということになる。
問題はその先、骨をどのくらい与えればいいかということ。これについてはまた次回に。
(本記事はdog actuallyにて2009年7月14日に初出したものをそのまま公開しています)
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