筑波大学附属病院がホスピタル・ファシリティドッグ®導入を決定


[Illustration by Gemini2.5(AI生成)]

2027年4月、茨城県の筑波大学附属病院にホスピタル・ファシリティドッグ®が導入されることが決定しました。国立大学病院としては初の試みとなります。その目的は、小児がんを中心とした子どもたちの心のケアをより体系的に支えることにあります。

長期入院や侵襲的な処置を伴う小児医療では、子どもたちは痛みだけでなく、不安や恐怖とも向き合わなければなりません。医療技術がどれほど進歩しても、心理的な負担は依然として残ります。筑波大学附属病院では医療スタッフだけでは寄り添いきれない心の部分を支えるため、犬と専任ハンドラーが医療チームの一員として関わる新たな医療支援体制の構築を進めてきました。

ファシリティドッグとは?

ファシリティドッグとは、医療機関や司法機関などの特定の施設(ファシリティ)で活動するために専門的なトレーニングを受けた犬の総称です。病院で働くファシリティドッグはそのひとつで、ボランティアで施設を訪問するセラピー活動とは異なり、施設の一員として日常的に関わりながら対象者の心理的負担の軽減や環境適応をサポートしています。活動は単発のふれあいにとどまらず、処置や検査の流れに沿って計画的に行われる点が特徴です。欧米ではすでに制度化が進み、小児医療をはじめ、さまざまな領域で活動が広がっています。

日本では、特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズが独自に育成・運用モデルを構築し、その専門的なトレーニングを受けた犬を「ホスピタル・ファシリティドッグ®」と商標登録し、基本方針を定めています。

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本記事では、シャイン・オン・キッズの制度に基づいて育成された犬を「HFD」と記し、それ以外の医療現場で活動する犬については、制度や育成体制の違いを含めて「ファシリティドッグ」と表記します。

日本の現状

現在の日本ではファシリティドッグの活動の中心は小児医療であり、導入例も限られています。欧米に比べると、制度として広く定着しているとはいえないのが現状です。

そのような状況のなかで、シャイン・オン・キッズは、選抜からトレーニング、医療環境への適応、ハンドラーの育成、感染対策までを一体化した独自の常勤型育成・運用体制を整えてきました。単に犬を派遣するのではなく、医療の現場に組み込まれることを前提としたモデルです。

HFDはこうした運営体制のもとで育成され、病院に常勤しながら医療チームと連携して活動します。処置や検査の場面に立ち会い、入院生活の中で継続的に関係を築いていく点に特徴があります。

もうひとつの特徴は、ハンドラーの在り方にあります。シャイン・オン・キッズの制度では、臨床経験を持ち、院内感染対策や小児医療の基礎を備えた看護師などの医療従事者がハンドラーを務めます。

そのため、介入は単なるふれあいにとどまりません。感染対策や安全管理は医療基準に沿って行われ、患者の状態や治療計画を理解したうえで処置や検査の流れに合わせた関わりが可能になります。犬の存在が医療の枠組みのなかに組み込まれている点が大きな特徴といえるでしょう。詳細については、シャイン・オン・キッズのウェブサイト内「ホスピタル・ファシリティドッグ®︎」の紹介ページをご参照ください。


[photo from wikimedia] 台湾で初めて病院に常駐した医療補助犬、Oba。

科学的な裏づけ:看護師ハンドラーと常勤型の効果

ホスピタル・ファシリティドッグ®(HFD)が医療の現場でどのような効果をもたらしているのかは、近年日本でも科学的に検証されつつあります。2023年に国際科学誌であるPLOS ONEに発表された論文では、看護師をハンドラーとする常勤型のHFDチームが、入院患者や医療スタッフにどのような影響を与えているのかを調査しています。

研究は、日本で初めてHFDを導入した静岡県立こども病院において、HFDと看護師ハンドラーがフルタイムで活動してきた事例を対象に行われました。医療スタッフ約600人に匿名型アンケート調査が実施され、そのうちHFDの活動を実際に観察した270人分の回答が分析対象となりました。アンケートは9項目について5段階評価で回答する形式で、自由記述欄も設けられていました。

アンケート解析の結果、HFDの介入が特に高く評価された場面として「終末期ケア」と「検査や臨床処置への協力」が挙げられました(いずれも回答者の73%が効果を「とても感じる」あるいは「いつも感じる」と回答)。自由記述から、HFDの存在によって、骨髄穿刺や手術室への同行など痛みや緊張を伴う検査や処置に対して患者の協力度が高まると感じていることが示されています。これらの傾向は、回答者の職種や臨床経験、犬の飼育経験などにかかわらず共通していました。

また、研究者らは看護師がハンドラーであるという点や、HFDチームが常勤であることが、このような効果を高める要因となっている可能性があると示唆しています。それは、看護師ハンドラーは医療計画や患者の状態を熟知しており、処置のタイミングや患者の状況に合わせてHFDの関わり方を調整できるためと考えられます。

このように、常勤型HFDと看護師ハンドラーの組み合わせは、医療現場における患者支援の一形態として一定の有用性が示唆されました。ただし研究者らは、今回の研究がハンドラーと犬のペアが2組に限られていたこと、また小規模な小児病院の医療スタッフを対象としていたことから、一般化にはさらなる研究が必要であると述べています。

筑波大学附属病院の挑戦

筑波大学附属病院では2027年4月のホスピタル・ファシリティドッグ®(HFD)導入に向けて、シャイン・オン・キッズとともに準備を進めているそうです。国立大学附属病院としての導入は全国初の試みであり、小児専門病院ではない総合病院における導入という点でも注目されます。

附属病院では、小児がんを中心としたこどもたちの心のケアを推進するとともに、将来的には一般病棟など成人患者へのケア提供も視野に入れています。成人領域まで見据えた導入は国内ではまだ珍しく、その展開にも関心が高まります。さらに、このような体制が整えば、今後の日本における医療支援のあり方にも影響を与える可能性があるでしょう。

なお、本取り組みにあたり、昨日、3月4日からクラウドファンディングがスタートしています。犬の育成に加え、導入後6年以上の長期的な活動を前提としているため、相応の維持費が必要となります。この活動に関心のある方は、筑波大学附属病院ファシリティドッグプログラムホームページの公式情報をご参照ください。

筑波大学附属病院 ファシリティドッグプログラム
筑波大学附属病院のファシリティドッグプログラム。医療現場で不安や痛みを抱える子どもたちの心のケアを支える取り組みや、クラウドファンディングによる支援活動を…【続きを読む】

日本の医療現場で犬が果たす役割は、まだ発展途上にあるといえます。筑波大学附属病院の新たな取り組みの今後の展開を見守っていきたいと思っています。

【参考文献、参考サイト】

Exploring the benefits of full-time hospital facility dogs working with nurse handlers in a children’s hospital. PLoS One. 18(5):e0285768. 2023

筑波大学附属病院ファシリティドッグプログラム

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