クリスマスのタブー:子犬というクリスマスプレゼント

文:藤田りか子


[Photo by Happy monkey]

今どきあまり見ないかもしれないが、昔のアメリカ映画やドラマには、クリスマスの朝に子犬か子猫をサプライズとして子供たちにプレゼントする、というシーンがあったような気がする。いや、もしかしてそれはポニーだったかもしれない。

城のような屋敷に住む大金持ちなら、子供が飽きてもきっとお手伝いさんが動物を最後まで世話してくれるのだろう。が、我々庶民同士が動物をサプライズのプレゼントにすることは、クリスマスに限らず、決してやってはいけない(かといって、「裕福ならやっていい」という話でもない、念のため)。

私が住むスウェーデンでも、子犬を誰かにプレゼントとして渡すことは基本的にタブーである。スウェーデンの動物保護法には「犬や猫をくじ引きの賞品にしてはいけない」と明記されているほどだ。浮ついた気分の勢いで動物を誰かに譲渡するだなんて、動物倫理から完全に逸脱しているし、そもそも、本当に犬を望んでいるかどうか確かめずに贈るというのは、相手に対しても失礼だ。贈る本人からすると

「この人は犬を飼ったらきっと幸せになる!」

などといった、きわめて勝手でエゴな思い込みがモチベーションになっているのだろう。あるいは、サプライズに驚く相手の顔を見たいと、という自己満足も隠れているかもしれない。

犬を迎えるには、散歩、健康管理、トレーニング、経済的負担など、数多くの責任が伴う。犬曰く読者ならわかるだろう。犬を飼うというのは、もはや「ライフスタイル(Way of life!)」である。犬を軸に人生を組み立てていかないと、犬と人の双方にとって満足のいく生活は成立しない。犬のためにも人のためにも、犬を迎えるには覚悟が絶対に必要だ。

とはいえ「子犬をプレゼントに」を断固否定しているわけではない。というのも、クリスマスに子犬を迎えることそのものが悪いわけではないからだ。もし家族のみんながすでに何年も犬を望んでいて、何度もディスカッションを重ねており、犬種選びやブリーダー探し、家庭環境の準備(仕事中にどうするか、犬の保育園は確保しているか等)を整えているのであれば、クリスマスに迎えるのは別に問題はないと思う。単に「たまたまそのタイミングがクリスマスだった」というだけだ。

ただクリスマスから年末年始にかけては、仕事や家の中が落ち着かない時期でもある。外出も増えるだろうし、子犬にとっては刺激が過剰になってしまうかもしれない。人間の都合だけでタイミングを決めるべきではないという点には注意したい。

日本ではクリスマスやお正月後に子犬がペットショップに返品されるという悲しい現象がよく起きていると聞く。スウェーデンでは、そのような事例はほぼ報告されない。理由はあきらか。ペットショップでの生体販売がなく、犬を衝動的に購入できないのだ。まずはブリーダー探し、ブリーダーと面談、子犬が生まれるまでの待機、もろもろの書類手続きなど、一連のプロセスが衝動買いを防いでいる。

ショッピングモールで犬が売られている状況では、当然その場の勢いだけで購入してしまうこともあると想像する。犬を「商品」として扱う構造が、人間側の「責任」という感覚を鈍らせてしまうのだろう。


動物を“プレゼントとして贈る”のはNGだが、“動物にプレゼントを贈る”のなら大いに結構!愛犬への最高の贈り物は、やはり犬が犬らしく過ごせる機会をあえて与えることかな?[Photo by Barnabas Davoti]