犬同士も「まばたき」で仲良くなれる?

文:尾形聡子

[photo by BP Miller]

犬も人も相手とコミュニケーションをとるときにボディランゲージを使いますが、その方法には共通点と相違点があります。犬と人は顔の形が違うため、表情の使い方は異なるものの、顔の表情を感情の伝達に使う点では共通しています。

まばたきのシンクロによる非言語的コミュニケーション

顔の表情のひとつである「まばたき」は、人や霊長類の種内における相互コミュニケーションにおいて親密さを高め、信頼形成に関わる可能性があることがこれまでの研究で示唆されています。たとえば人同士が対面で会話をしているとき、会話の区切りなどで相手とまばたきのタイミングが無意識のうちに自然に重なることがあります。2019年の日本の研究でも、まばたきを相手と無意識的に模倣することで、相手への好感度が上がるという結果が報告されています。

このような行動の同期現象の中には意識的に模倣するものもあれば、無意識に自然に発生するものもありますが、あくびや笑顔などがミラーニューロンにより「模倣」され、同調して起こることがあります。このような、他者の感情状態がそれをみている人に無意識的にうつる現象を「情動伝染(Emotional Contagion)」といいます。(情動伝染について詳しくは「愛犬との交流、多くの恩恵を受けられる人の特徴は?」を参照ください)

これまでの研究から、犬は他の犬や人のあくびや表情に反応し、情動伝染したり模倣したりするという報告がされています。犬のまばたきは他の犬や人に安心のサインを送ったり、緊張をやわらげ争いを避けようとするときに使うシグナルと解釈されていますが、犬が他犬のまばたきを模倣しているかどうかは、科学的に検証されていませんでした。

そこで、イタリアのパルマ大学の研究者らは、犬が他犬のまばたきに対してフィードバック反応をするか(まばたきの模倣)を観察するために実験を行いました。その際に心拍変動も計測することで、犬の情動状態とまばたきとに関連性があるのかどうか、犬同士のまばたきの社会的な意味合いも調べられました。


[photo by Filipe Cantador]

3種類の動画を鑑賞

研究者らはまず、以下の写真の3頭の犬(ボーダー・コリーミックス、アメリカン・コッカーミックス、テリアミックス)をアクター犬として、それぞれ「まばたきしている様子」「鼻を舐めている様子」「じっと見つめている状態(対照条件)」の撮影を行いました。それを以下の写真のように編集しました。

[image from Royal Society Open Science fig2] 緑のコーンが1秒、各犬ごとに12秒で合計40秒の映像。


[image from Royal Society Open Science fig4] 写真上から「じっとカメラを見つめている状態(対照条件)」「まばたきしている様子」「鼻を舐めている様子」

この映像をランダムな順番で大型のスクリーンに映し出して54頭の家庭犬に見せ、その様子をビデオ録画しました。また、犬には心拍計を装着して生理的な感情状態も測定しました。

実験の途中で寝てしまった7頭の犬を除き、47頭の犬について解析が行われました。まず、映像を見せたときの行動においては、「まばたき映像」を見たときにはほかの映像と比べて平均で約16%まばたきの回数が増えていました。「鼻舐め」「じっと見つめる」の二種類の動画においては、行動の増加は認められませんでした。ちなみに映像の解析には犬の表情解析システム「DogFACS」が使用されました。

心拍変動は視聴している最中に増加しましたが、映像の種類にかかわらず共通して見られたものでした。このことから、情動的には中立あるいは穏やかな状態であり、特定の刺激に対してストレスを感じているわけではなかったことが示されたと言えます。

これらの結果から研究者らは、他の犬がまばたきをしているのを見て自然にまばたきの頻度を増やしていたことは、単なる生理現象ではなくまばたきの模倣による社会的な機能が存在する可能性があると結論しています。ただし、映像の犬のまばたきと同期していたか、その反応がどのくらい速かったかというところまでは確認できなかったため、今後の研究でその点を検証する必要があるとしています。

それでも他の犬のまばたきに対して非意図的にまばたきが増えていたことは、人や霊長類と同様に親密さを高める相互コミュニケーション反応である可能性を示唆するもので、顔の表情模倣の一種であると考えられます。

犬は人とシンクロできる動物

今回の研究は犬同士のものでしたが、犬は異なる生物種である人とも行動を同期させることができます。

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逆に、人が犬に行動を同期させることで、犬と早く仲良くなれる可能性も示されています。

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行動の同期や伝染のような非言語コミュニケーションは、私たちが気づかないうちに関係性を深めることに役立っているようです。ならば意識的に愛犬と行動をシンクロしてみない手はないですね!

今回の研究から、犬の行動や顔の表情などを丁寧に観察しようとする姿勢でいることも大切だとあらためて感じさせられました。まずは愛犬のまばたきの様子を意識して見てみてはいかがでしょう?

 【参考文献】

If you blink at me, I’ll blink back. Domestic dogs’ feedback to conspecific visual cues. Royal Society Open Science. 12(2):241703. 2025

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