犬同士のコミュニケーションに「頭の形」は影響する?

文:尾形聡子


[photo by Ding]

19世紀、イギリスのヴィクトリア朝時代に誕生した「犬種」という概念によって血統や外見的な姿が重視されるようになり、犬は行動のみならず外見においても幅広い多様性を持つように変化してきました。形態的な変化の中でも特に顕著なのが頭部の形。マズルが極端に短く丸い頭部を持つ犬種を短頭種、サイトハウンドなどマズルが細長い犬を長頭種、そしてその中間に位置する牧羊犬やレトリーバーなどは中頭種と区分されます。

中でも近年世界的に人気なのが短頭種です。フレンチ・ブルドッグやパグなど顔が平たくて目が大きな犬種は、ローレンツの幼児図式に当てはまる特徴的な見た目をしているため、それが人のポジティブな感情を引き起こし、愛着を抱きやすくさせていると考えられています。

しかしその一方で、そのようなマズルの短い見た目は極端なレベルにまで変化してきていることから、鼻腔や咽頭の構造が圧縮されたり鼻孔が狭くなったりすることで常に呼吸がしにくい状態になる気道閉鎖症候群(BOAS)の発症リスクが非常に高くなっています。また、マズルが短くなったために皮膚がたるんでシワが寄るため皮膚病になりやすかったり、ブルドッグ系のごく一部の犬種が持つスクリューテールと呼ばれる短い尻尾は脊椎の形成異常によるものであったりと、さまざまな健康問題も抱えることになりました。

そして、独特な頭部の形態を持つようになった短頭種は、顔の表情をつくるための筋肉の動きが制限されたり、尻尾によるシグナル発信ができなくなったりしていることから、犬同士がコミュニケーションをはかる中で誤解が生ずるなど、何らかの影響を及ぼしているかもしれません。

そもそも犬は、祖先のオオカミに比べて顔の表情が判別しにくくなっていて、表情をつくる筋肉の動きが制限されていることが最近の研究で示されています(「犬の表情、実はオオカミよりも出せない現状」参照)。それには犬種の外見状の特徴として、短いマズル、しわが寄った顔、垂れた耳などを持ったことが影響しているためと考えられています。

しかし、そのような頭の形や顔の特徴が犬同士のコミュニケーションにどのような影響を与えているかについて調べた研究は少なく、一部の研究では「影響はあまりない」とされる一方で、「顔の形やマズルの長さが表情の出しやすさに関係している」という報告もあるなど、はっきりしたことはわかっていません。

そこで、イタリアのパルマ大学の研究者らは異なるタイプの頭部を持つ短頭種と中頭種の犬を対象とし、それぞれの犬が接するときにどのような行動や表情を見せるのかを観察し、頭部の形がコミュニケーションのとりやすさにどのような影響を及ぼしているかを明らかにするために実験を行いました。


[photo by Cavan for Adobe]

頭の形の違いにより行動に違いが見られたか?

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