ノーズワークハンドラーの技術の向上を見た競技会 in 戸塚

文:藤田りか子


2025年2月16日、ノーズワークスポーツクラブ主催によって開催されたノーズワーク公式競技会。ジャッジはピッレ・アンデションさん。過去最高の23組のエントリーとなった![Photo by Miho Nomura]

9年後の今

驚くなかれ。2023年から今日にかけて、ノーズワークスポーツクラブによるスウェーデンルールの公式競技会はすでに7回も開催されている。いずれもスウェーデンノーズワーククラブ公認審査員のピッレ・アンデションさんがジャッジを務めた。そして嬉しいことにこれまでの競技会を通してNW1(クラス1・初級)のディプロマを3枚獲得したペアが6組誕生(2025年3月4日時点)!ついに日本でもNW2(クラス2)で競技できるペアが登場したのだ。あと1枚、というリーチがかかっているハンドラーも何人か存在する。4月には、日本初となるマッツ・ヘドルンドさんがスウェーデンから招かれ審査員を務める。その競技会で、さらに多くのNW2ハンドラーと犬が誕生することだろう。

ノーズワークを北欧から日本に紹介した当初を思い返すと、NW2までのレベルに達したという進展は感無量だ。2016年、スウェーデンでラッコとノーズワークを始めた頃、私は独りで嬉々としながら「こんなに楽しいドッグスポーツはない」と日本で記事を書き続けていた。しかしあまり反応もなく、当時それは多くの読者にとって、あくまで遠い国の出来事に過ぎなかったと思うのだ。あれから9年。多くのノーズワーク愛好家たちが、ウェビナーやインストラクターコース、さらには競技会を通じて、スウェーデンのインストラクターから直接学んで知識を十分につけ、ノーズワークスポーツの魅力のみならず、テクニックや練習方法についてとても深くそして熱く語るようになった。

変な言い方かもしれないが、特に失敗したときに、その反省をもとにノーズワークのハンドリングについて議論が交わされるのを聞くのは、楽しい。

「犬にプレッシャーをかけすぎて、エラーアラートを出してしまった」
「声をかけすぎて、犬の集中を乱してしまった」
「犬を信じられず、自分が操作してしまった」

こうした失敗こそが、将来の貴重な学びとなる。それはまさにハンドラーたちが知識をどんどん吸収している証拠でもあり、その現場にこうして立ち会えていることがすごく素敵と思ったのだ。

ハンドラーの技術が向上!

さる2025年2月16日、横浜市戸塚の幸和建設工業株式会社の敷地で開催されたノーズワークスポーツクラブ主催による第4回目の公式ノーズワーク競技会NW1のジャッジであるピッレ・アンデションさんは、今回の競技を審査してしてこう述べた。

「2023年の11月に初めて審査した時に比べると確実にハンドラーの質が上がっているのがわかります。そしてきちんとインストラクターから習っている人と、そうではない人のハンドリングの差が今回はっきり現れていますね」

本競技会のエントリーは過去最高、23組が出場。そして満点のディプロマを獲得したのが9組!その中でもピッレさんによってグッドコラボレーション賞(SSE)が授与され、かつ全体3位であったドックローバーの長谷川光さんは競技会を振り返りこのように語ってくれた。

公式戦でプレーするのは4度目となった今回の戸塚大会です。この競技会のために前日の仕事は早退し、兵庫から車で約550キロ、休憩を挟んで11時間の大移動をしてきました。ノーズワークとなると、なぜかフットワークが軽くなります(笑)。競技中は今まで学んだことを活かし、

  • とにかく犬を邪魔する動きをしないこと
  • 距離を取って犬の動きを観察すること
  • 集中したらスタートを切ること
  • 自分と遼馬が練習で積み上げできたことを信じる

ということを意識して競技に臨みました。

ハンドラーが心から競技に集中できる環境を提供してくださった幸和建設工業株式会社様とノーズワークスポーツクラブの運営メンバーの方々に心から感謝しています。ちなみに、実はこの5日後に行われた加古川大会ではインテリアサーチでエラーアラートを出してしまい上手くいかなかったんですよ。3枚目のディプロマがかかってたということもあり、硬くなってたのかな、と。それがまたノーズワークの面白いところというか…。だからやめられないですね(笑)

以下の動画は本大会における長谷川さんのサーチの様子だ。ハンドラーは犬から離れ、犬に圧をかけないよう、そしてにおいの雲をとれるよう十分にスペースをあたえている。良いハンドリングの例として観察してみよう。尚ここにはインテリアサーチをのぞく3サーチが収録されている(インテリアサーチは都合上、動画撮影はなし)

競技は、車両サーチから始まった。建設会社の敷地ということで、建機を載せたトラックやユンボなど、普段あまり見慣れない車両でのサーチ!エキサイティングだ。(動画提供:Docrover


総合3位までのハンドラーのみなさん。右から優勝を果たした高橋萌菜さん、ジャッジのピッレ・アンデションさん、2位で今回3枚目のディプロマをゲットした石井礼子さん、そして3位でSSE賞(=グッドコラボレーション賞)を獲得した長谷川光さん。[Photo by Miho Nomura]

競技会会場となった「幸和建設工業」の地域とペットとの取り組み

競技会を開くのはいいが、主催をするものとして一番困ることは、競技会場探しである。日本では本当に難しい!以前も述べたことだが車両サーチできるところとインテリアサーチができるところ、両方を兼ね備えた場所がなかなか見つからない。いや、場所はあるのだが、たいてい犬連れはお断り。

そんな中、今回ノーズワーク会場として最高の環境を提供してくれたのが、幸和建設工業株式会社、武田幸光社長だ。地域と歩む、をモットーとしさまざまな地域貢献活動に力を入れ、その一環として、会社敷地内にドッグランを開設している。もともとは犬を安心して遊ばせられる場所を作ることが目的だったが、震災を機に「ペットと避難できる場所」の必要性を感じ、防災拠点としての機能も持たせることにした。

今回競技会の場所を貸してくださった幸和建設工業株式会社武田幸光社長。ピッレ・アンデションさんと。 [Photo by Yumi Nagaoka]

ドッグランは無料で開放されており、ペットと子どもが安心して過ごせる場となっている。さらには最近ではドッグランのみならず、施設内の建物をドッグトレーナーが開催する教室の場として提供することも始めた。その延長がこの度のノーズワーク競技会会場としての貸し出しというわけだ。敷地内には、さまざまな建機や建設用のコンクリートブロックがあり、ハイドのための隠し場所が満載!ノーズワークには最高の場所だ。ノーズワークスポーツクラブではこの施設を競技会場のみならず、翌日から始まったノーズワークインストラクター養成セミナーの教室としても使用した。

ちなみに全く犬とは関係ない会社が、犬を媒体にして地域と繋がる試みは効果があったのか?を武田社長に伺ってみた。

「はい、もちろんです!ドッグランを通じて地域住民との交流が生まれ、会社への理解も深まりました。地域の方々と顔を合わせて話せる機会が増えました。会社の社長と直接話す機会なんてなかなかないですよね(笑)。そういった交流を通じて、会社への理解も深まりました。実際に、ドッグランを利用していた方が当社の事務員として働くことになったり、『あの会社、いい雰囲気だよ』という評判を聞いて入社を希望する若い人が出てきたりしました」

最近企業の地域貢献が一種の流行のようではあるが、武田社長は特にそのムーブメントに乗ろうとしたわけではなく、自然な流れでこういう形になったとも語ってくれた。

「結果として、会社の雰囲気や考え方を知ってもらい、地域とのつながりが強まるというメリットを実感しています」


商談ルームをインテリアサーチのエリアとして使わせていただくことができた!いろいろなものがあちこちに!とても面白いサーチとなった。[Photo by Megumi Fujino]

競技会当日はドッグスポーツジャーナル河村達三さんが取材に。上の映像を作ってくださいました!

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